「はよーごぜーやーす」
「りっちゃんおはよー」
今日もりっちゃんは安定の時間前集合。国の標準時から10分15分遅れるのが当たり前のMMP時刻からすれば、奇跡の象徴とも言えるその姿に今日も感動を覚える。どこぞのヘンクツどもに爪の垢でも煎じて飲ませたい。
夏休みはサークル活動も休止中、とは言え9月に入れば実質的に活動再開。それもオープンキャンパスで食堂に出すDJブースのためだ。それなのにここのサークルの連中、と言うかりっちゃんを除く2年生の遅刻率は相変わらず。
「やっぱり時間前だと菜月先輩くらいしかいないスね」
「圭斗も三井も何だかんだでルーズだからな」
「ああ、ところで菜月先輩て夏みかんゼリー好きでしたっけ」
唐突に振られたこの話題が妙に不気味で。よくよく見るとりっちゃんの手にはいつも飲んでるのとは違う銘柄の缶コーヒーと夏みかんゼリーの缶。振ってジェル状にして飲むと美味しいというタイプの。ちなみに果肉入りだ。
「柑橘系は大体好きだけど、どうした?」
「じャよかったスわ。下の自販でコーヒー買おうと思ってボタン押したらコイツが出てきたンすわ」
「えっ、コーヒーのボタンなのに?」
「多分業者が間違えたんだと思うンすけど、自分、夏みかんゼリーを飲む気分でもなかったんで菜月先輩よかったらどーぞ」
「ありがと」
確かにりっちゃんが缶コーヒー以外の物を飲んでいるイメージというのは全くと言っていいほどない。その缶コーヒーにしても、結構好みがあるように思っていたからいつもの銘柄じゃないというだけでもちょっと違和感がある。
と言うかこのサークルの面々は飲み物の好みが分かりやすすぎる上に、誰と言えばこれ、みたいな物が固まってるんだ。「いつもの」に手を出そうとして降ってきた物が違ったら、ちょっとショックを受けてしまうかもしれない。
「うん、うまー」
「よかったスわ」
さっそくもらった夏みかんゼリーを強く振って封を切った。時折ゼリーに紛れて流れ込んでくる果肉も美味しい。まだまだ残暑が尾を引いているだけに、冷たいゼリーは格別。
「次に業者が来るのいつスかねェー」
「でも、自販機の中身が結構なくならないと来ないんじゃないか?」
「そースよねェー、夏休み中は期待出来ないスか」
「出来ないかもな、残念ながら」
そしてりっちゃんは、自販機の中身が元通りになるまではここに来るまでの間にあらかじめいつもの缶コーヒーを買っておかないと、と念押しをした。そこまでするのかと思うけど、こだわりが強いとそうなるのかもしれない。
「おはようございます」
「やァー、圭斗先輩はよーごぜーやーす」
「どうしたんだ圭斗、珍しく早いじゃないか」
足音もなくやってきた圭斗の手には、いつもの緑茶のボトル。だけど、圭斗の席にはもう緑茶のペットボトルが立っている。って言うかこれ、いつからあるんだ。
「菜月さんが夏みかんゼリーだなんて、珍しいね」
「りっちゃんからの思し召しだ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「ハハァー圭斗先輩、野坂がいないからって口癖の盗用すかァー」
「まあ、野坂だとしても同じリアクションだろうからね、先取りをしたというだけだよ。僕がMMP標準時だ」
圭斗のこの発言に、うちもりっちゃんも「はいはい」と声が揃ったのは言うまでもない。とりあえず、いつからあるのかわからないそのボトルはちゃんと片付けてもらおうか。
end.
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エコメモSSで話がズレるのはよくあることです。主題はボタン押したら違う飲み物が出てきた、みたいなこと。
久々にりっちゃんの話がやりたくなって、それなら自販機を使う率の高いりっちゃんでこのネタをやろうと思いましたとさ。
りっちゃんからの思し召しを受けられるだなんてさすが菜月さんだね! ラブ&ピース!