「カズ、当日に2時間の自由を! この通ーりっ!」
いやあ、見事なジャンピング土下座だ。今の俺の目がどうなっているのか簡単に言えば、古代文明の壁画にあるようなあんな感じの。
「2時間か、その間俺に何をしてろと」
「適当なところで時間潰しててもらって……あっ、第一部と第二部の間の時間にしよう、第二部はまた待ち合わせから始めるの」
「お前な、誕生日はずっと一緒にいたいっつったのどこの誰だ」
「ここの私です。確かに「誕生日は24時間拘束して」って言いました、ですが事情が変わったんですよ!」
何を隠そう、ずっと一緒にいると約束した誕生日に2時間の単独行動時間をくれという直談判。ネサフで何を見つけたのか、急に目が変わったよな。
ただ、こういう時の慧梨夏に何が絡んでるかなんて聞かなくても分かる。俺を放置出来るだけのイベントと言えば二次元趣味のこと以外にはない。普段なら首も縦に振るだろうけど誕生日は特別だろ。
他のときに引きこもってるからこそ誕生日とか記念日とか、イベントの時くらいは外に出てちゃんとした普通のデートをしようっていう風に決めたじゃんな。それがどうした。
「そりゃ、秋の向ソピが29日だってのは知ってましたよ。だからうちはサークル参加を見合わせたんじゃんね」
「コウソピ」
「そうさくこううんきイン向島ね。一次創作オンリーの同人誌即売会。ここまではオッケー?」
「で、その秋の向ソピに行きたい、と」
「一般で2時間だけ…! お願いしますっ!」
と言うかいつの間にそれを向ソピなんて略し方してたんですかね。まあ略称どうこうは別にいいんだけど、参加を見合わせたって言うならどうして今になって行きたいだなんて。
「片桐さんが来るんですよ!」
「片桐さんってーと、お前と仲いいオン友だっていうあの人か? ロリツインテの神だっけ」
「あとメカの神ね。片桐さん基本二次の人だから一次のイベには滅多に来ないの! だからこれはまたとないチャンスなんですよ!」
「で、俺は片桐さん未満ってか」
そりゃ普段から慧梨夏は三次元に用事はありませんみたいなことを言ってるさ。オン友の片桐さんも実体のない二次元の、非実在片桐さんみたいなところがあったから生暖かく見てましたとも。
だがその片桐さんが実在して、三次元にその姿を求めているとなれば話は別で、お前ナニ三次元の言ってしまえばロリコン野郎に駆け寄ろうとしてんだっていうな。
「俺を放置してでも片桐さんに会うのが優先なんだろ」
「そうは言ってないじゃん」
「言ってるだろ」
「じゃあカズも一緒に行って、片桐さんにいつも彼女がお世話になってますって挨拶しとく?」
「あー、そりゃねーわ」
「ね」
そして改めて、1時間だけお願いしますと言われてしまえばわかりましたと頷いてしまうのが俺の弱いところだと思う。その1時間は何をしてようか。ちょっとしたサプライズでも用意するのが筋なのか。
「言っとくけどカズ、片桐さんうちとカズのデート現場押さえて全力で冷やかそうとしてるからね、こんなバカップルが実在してやがったなんてって具合にね」
「うわー絶対バレたくねー……」
「だからイベントは逆にチャンスなのわかる?」
いや、それはさすがにわからない。
end.
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いっそ見つかってしまえ! ……ないっちー×慧梨夏の誕生日デート危機一髪回。片桐さんがんばってー
片桐さんきっとロリ+メカの画集みたいなの出すんだろうな、だとすると楽しい。ある種ギャップだしね。
そして片桐さんの中でも雨宮さんの彼氏は二次元の存在だよ!