「リン! お前これどーした!」
「あー、アンタに見つかってしまいましたか」
「テメー絶対わざと置いてただろ!」
林原さんと春山さんの掛け合いを久し振りに見た気がする。懐かしいと言うか、何と言うかほっとするなー。怖いはずなのにほっこりするって何なんだろうなー、ワケわかんないやー。
春山さんは、林原さんが机の上に置いていたCDに食いついている。きっと2人の趣味が合う物なのかな。ジャズとか、そっち系かなー。俺もギター始めたことだしちょっと聞いてみたいなー。
「どいつもこいつもプレミアついてるサントラばっかじゃねーか! 全然見つかんねーし見つかったら見つかったで業者か富裕層が持ってくんだ! まさかお前やらかしたか」
「残念でしょうが、捕まるようなことはしてません。オレも借りた物なので乱雑に扱わないで下さい」
「は〜……こんなのをこんだけ揃えてるとか何者だよソイツ」
「これらはラックにあったほんの一部です。CDだけでなくDVDや本なども多量にあって、烏丸の部屋とは違う方向性で興味深い空間でした」
「私が好きそうな物は」
「と言うか、アンタの好きそうな物ばかりでしたよ。スター・ウォーズもありましたし。それだけでなく歴史系の小説や資料なども豊富ですし、宇宙開発系の資料もありましたね。とにかくジャンルを問わない部屋でした」
「行ーくぅー! 私もその楽しそうなお屋敷に行ーくぅー!」
「8畳ですよ。と言うかやめんか」
春山さんが駄々をこねるのも久しぶりに見るとなんだか安心するなー。って言うかこの世の中……と言うかちょっと行ける範囲内に春山さんと林原さんの趣味をことごとくカバーするお屋敷があるだなんて。ひゃー、びっくりだ。
借り物のCDを見ながら、春山さんはその作品に対するエピソードやポイントなんかを語っている。すごいなー、俺には全然わかんないや。だけど、林原さんはその話がわかってるのが何よりすごいや。いつの時代の作品かもわからないのに。
「春山さん、今日は綾瀬は」
「いや、来るとは聞いてねーぞ。どうした」
「いえ、来ないなら安心しました。聞いてもらっていいですか」
「どうしたよリン、お前がそんな深刻な顔してるとか。悪いモンでも食ったか」
「悪い物は食っとらんが、これから話すことはオフレコでお願いします」
「おう」
「俺もですか?」
「ああ。憶測の域を抜けないが、オレがこのCDらを借りた奴が綾瀬の探している非実在先輩である可能性が浮上している」
「えっ、えーっ!?」
「リンお前マジか!」
林原さんは、その人がこれまでに書いた台本を読んだそうだ。その中には高校の頃に書かれた演劇の台本も含まれていた。話の内容が以前カナコさんがここで話していた内容と一致する部分が多いこと、そしてキャスト一覧にあったカナコさんの名前。
それだけ確定し得る材料があるのに林原さんの中で決定打とならないのは、その“先輩”とされる人から高校時代の話を引き出せなかったからだそうだ。その場では映画音楽らの話がメインだったから、とのこと。
「まあ、カナコの言う“先輩”だったらこんだけレア音源を持ってても不思議ではないなー。で、どこのどいつなんだ?」
「いえ、それが漏れるといろいろ面倒なので伏せますが。綾瀬本人が立てた、星大生ではないという仮説は正解です」
「カナコさん、本当に先輩に着々と近付いてるんだなー……」
「リン、カナコに言うのか?」
「何故言わねばならん。本人がノーヒントで捜したがっている物を」
そう、確かにカナコさんは誰からのヒントも得ずに先輩を探すことにこだわってるんだよなあ。そうじゃないと運命とは呼べないって。ただ、ここまで来ると“運命”って何だろうって思えてくる。
「あと、カナコの件は抜きにしても私がそのお屋敷に行きたいぞ」
「やめんか」
「このCDは預かった。返して欲しくば」
「“お屋敷”に足を踏み入れるには、家主に対価を払わねばならんぞ。まあ、アンタの略歴や武勇伝だけでもアイツには十分すぎるくらいうまみがあるだろうが」
end.
++++
リン様がついにたどり着いてしまったことに気付いてしまったらしい。ただ、カナコには黙っている模様。リン様はカナコのことを情報センターの誰よりわかってそうだ
うん、まあ、お屋敷の家主、人の話聞くの大好きだからね。春山さんみたいなちょっとアレな人の話なんかうきうきして聞くだろうね!
春山さんがダダをこねているのが好きです。ジタバタしてやんややんやと我が儘放題なくらいがちょうどいいのが春山さんだよ!