「高ピー先輩って、ブラックコーヒー飲めないんですよね」
「それがどうかしたか」
高ピー先輩に拉致されてやってきたカフェは、ボサノヴァが今日もいい雰囲気を演出している。ケーキの甘い香りと、コーヒーの香ばしい香りの奏でるハーモニーが食欲をそそる。
カフェモカを一口。コーヒーは好きなのにブラックが飲めないという、高ピー先輩の性格や言動からするとギャップとも取れる嗜好をひと突きすると、眉間にはうっすらとシワが寄る。
「何か意外なんですよねー」
「そりゃ悪かったな」
「別に悪いとは言ってないじゃないですか。アタシだってブラックよりはラテ派ですし」
「でも、飲めないことはねぇんだろ」
「そりゃ、まあ」
カフェラテには砂糖を入れないくらいがアタシの味覚にはちょうどいい。ソーサーに乗ってきたそれにはノータッチ。高ピー先輩はカフェモカだから、元々甘い。ソーサーの上にはシルバーが乗るだけ。
甘いドリンクに甘いケーキを重ねる高ピー先輩は結構な甘党。そのケーキもさっぱり系とかじゃなくて重い。カフェモカも飲み物で言えば重い部類なのに。ただ、その食べっぷりはイメージ通り。
「ここはカフェモカがあるからいいんだけどよ、ホットかアイスしか選べねぇトコとか向こうが砂糖とミルクをつけてくれるトコだと困るんだよな」
「何でですか?」
「大体もらえるミルクとか砂糖って1コじゃねぇか。まず足りねぇし、そもそもそういうのを入れても俺が思う味じゃねぇっつーか」
「ああ、わかる気がします」
「不味くなるから砂糖だのミルクだのは入れたくねぇんだけど、ブラックで飲むか? っつっても飲めねぇだろ。他のドリンクも違うっつーか」
自分の家でインスタントコーヒーを淹れることもしない高ピー先輩は、本当にお店頼み。コーヒーに関して、味がわかるとかそういうのではないと言いつつも、本人なりのこだわりはとても強い。
アタシはコーヒーショップ店員というバイト柄いろいろな人を見てきたけど、それひとつ取っても人が出るんだなというのはわからないでもない。性格診断なんかは出来ないけど。
「コーヒーと言えば、タカちゃんも結構こだわり強いみたいですよね」
「ああ、何だっけ。インスタントがクソ不味いからドリップに変えた、とかだっけ」
「その割にお店ではあんまりこだわらないらしいですけどね」
「アイツもよくわかんねぇヤツだな」
「缶コーヒーは微糖派みたいですよ」
「でも家じゃ牛乳と砂糖それなりに入れてるんだろ?」
「気分によって変えてるんですかね」
そういやアイツをここに拉致って来たことはねぇな、と何かを考えている様子の先輩を後目に、ケーキを一口ぱくり。うん、美味しい。口いっぱいに広がる幸せの味に、鼻から抜ける香りが最高。
「ま、俺にはコーヒー牛乳くらいがちょうどだな」
「湯上がりのコーヒー牛乳って幸せですよね」
「違いねぇな」
年食ってきたらその辺の味覚なんかも変わってくんのかな、と今はまだ飲めないブラックコーヒーに思いを馳せる先輩がまたかわいく見えたりもする。
「でも、コーヒー牛乳ってコーヒー飲料と言うよりは乳飲料に分類されません? どっちかと言えば」
「それを言うな」
end.
++++
某お店で飲んだコーヒーで降ってきた3月の高崎。高崎はブラックが飲めないよ! 逆に美奈なんかはブラックしか飲めなかったりするし、人それぞれだね!
高崎の行きつけだと最近では「髭」というお店も出来たんだけど、ここは「fine chase」。雰囲気も明るめ。「髭」はちょっと鬱蒼としてる。
そう考えるとMBCCって紅茶かコーヒーだと結構みんなコーヒー寄りになるのかな。高崎・タカちゃん・果林がコーヒー派だし。いっちーはどっちだろうね。