「おはようございまーす」
「来たか川北、今日から戦争だぞ」
バイト先の扉を開くや否や、バイトリーダーの春山さんがギロリと目を光らせている。正直、春山さんは元々の目つきがそんなに良くない方の人だから、戦争というその言葉にも重みはさほど感じられない。
蛍光イエローのスタッフジャンパーを羽織り、今日の動きを確認する。俺はB番、情報センター内で利用者のサポートに入ることになっている。あとは、プリンターなど周辺機器あれこれの対応。
「今日から履修登録だからな、人が増えるぞ」
「ああ、そうでした」
「それ以上に何が問題かわかるな」
「いえ、わかりません」
「即答するな、ちょっとは考えろ」
スミマセンと平謝りして、履修登録というプチ繁忙期にどんな問題が発生するのかを考える。センター内に手がかりはあるのだろうか。辺りをキョロキョロ見渡してもそれらしいヒントはない。
「考えた結果わかりません」
「繁忙期は、B番も2人以上体制になることは夏休み前でわかったと思う」
「はい、そうですね」
「繁忙期ということは、普段センターを利用しない連中が規約も何もあったモンじゃないバカげた使い方をする、ということは想定出来るな」
「はい」
「バカげた連中が増えるということは、何でもかんでもブラリ登録したがるB番の主を監視する必要が出てくることもわかるな?」
「……戦争じゃないですか!」
「やっと事の重要さに気付いたか」
そう言われてみれば、机の上にはミルクティーを飲んだ形跡のあるカップが置かれている。その割に林原さん本人がいないけど、まさか既にスタンバっているのだろうか。
確かに、情報センターの利用規約に反する学生に対してブラックリスト登録をすることでその利用に制限をかけることが出来る。でも林原さんの基準は厳しすぎると春山さんは嘆いている。
林原さんが利用者と揉める前に怪しい奴はお前が注意しろと春山さんから戦争を回避する術を託される。あまりにも酷いようならいいけど、履修登録期間中は多少見逃せと。
「でも、俺が注意して利用者に逆ギレされたらどうしたらいいんですか」
「その時はリンに投げればいい。奴が言ってもダメならここを利用できなくなるだけだ」
物事には段階というモノがあってだな、と春山さんは鉛筆をかじり始めた。ある意味俺は証人であり、クッションであると。繁忙期の仕事はA番B番それぞれの主の間で忙しくなりそうだ。
「今日はカードキー認証は行わないんですよね。ブラリ登録の時は直接学籍番号を控えてくればいいんですか?」
「ああ、それでいい。いいか川北、リンが暴走する前にお前が割って入れ、いいな」
「自信はありませんけど」
「いいから行ってこい」
そして重い足取りでセンターの扉を開ければ、誰もいない部屋の中で林原さんが黙々と椅子を並べたり、プリンター等周辺機器のセッティングをしていた。
俺の気配に気付くなりに「春山さんから何を吹き込まれた」と訪ねてくるのだからこの2人、行動パターンを分かりきっているのだなあと思ったりして。
「怪しい利用者に関しては俺が積極的に声をかけに行け、みたいなことですね。それで逆ギレされたら林原さんに投げろと」
「ほう、段階を踏ませに来たか」
そうさせるからには1回言ってダメなら容赦なくブラリ登録させてもらうぞ、と林原さんの目が光る。やっぱり、止めるべきはA番B番それぞれの主の間の戦争なのかもしれない。
end.
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星大情報センターに3人目が入ると何となく話の幅も広がりやすいようなそんなような。UHBCでも頑張れミドリ!
リン様的には「規約を全部読めとは言わんが張り紙してある注意事項も守れん奴を弾いて何が悪い」みたいなこと。
春山さんはいろいろと苦労しそうだなあと思ったけど春山さんも大概なので、情報センターで一番苦労するのは名前があるキャラだとミドリなんだろうなあ。