「ふゎ〜あ」
「タカちゃん、眠そうだねえ」
「あ、果林先輩。おはようございます」
「何か、そんな顔でおはようございますなんて、本当に寝起きのおはようございますみたいだよね」
大学生の挨拶はいつでもどこでも「おはようございます」を使いがちだけど、確かに寝起きであることには間違いないからこのおはようはそういうおはように解釈されても仕方ないかなという感じ。
3限のドイツ語Aの授業を受けていたはずなんだけど、記憶があまりない。それはもちろん寝ていたからに他ならないワケで。こんな調子だと来年もう1回やらなきゃいけなくなるんじゃないかっていう危機感も少し。
4限はストレスと健康の社会学っていう講義で、たまたま果林先輩と履修が被っていたという関係で一緒に受けるようになっていた。ストレスと健康か。肝臓が大変なことになるかもしれないけど、ストレスなあ。
「タカちゃんそんな調子でテスト大丈夫? 必修はちゃんとやっとかないと」
「そうなんですよね。わかってはいるんですけど」
「夜寝る時間はどうなった? 早めるみたいなこと言ってたじゃん」
「あ、少しずつ早くなってます」
「おっ、何時」
「昨日は3時です」
「早くない!」
「ちょっと、ゲームをしてたらいつの間にか」
「タカちゃんて地味にいろいろゲームやってるよね。森はやってる? スマホの」
「やってます」
「あっ、じゃあフレンドになろうよ。アタシもやってるから」
「わかりました」
――なんて、ゲームのIDを交換しながらの寝る時間を早めるとかいう話題には説得力がない。それでも果林先輩と最初にこの話をした時の就寝時間は5時とかだったから、3時だったら結構劇的に改善出来てるはずなんだ。
「タカちゃん、ドイツ語の辞書は使いこんでるのに実際内容は入ってなさそうだよねえその調子じゃ」
「まあ、使いこんだのは高崎先輩ですし」
「あ、そう言えばお下がりだったね」
「ちょうど教科書販売のタイミングで高崎先輩が譲ってくれて。俺も最初はあまりに使いこまれててビックリしました」
「高ピー先輩、タカちゃんに辞書あげたのちょっと後悔してるっぽいこと言ってたよ」
「えっ、何ですか」
高崎先輩だったら向学心とかそういう意味で、自分でもっと勉強をするために辞書を手元に持っていたかったのかもしれない。或いは、俺があまりにダメダメすぎてこんな奴に辞書を譲らなきゃよかったという後悔か。
「もしかして俺が授業中に寝てるとか前期のテストもちょっと怪しかったっていうのが筒抜けて」
「ううん。ほら、ドイツってビールで有名じゃん」
「え? ああ、はい」
「それで、輸入食品店でドイツビールの瓶を買って飲むこともあるワケ。その時に、ラベルを読むのに辞書が手元にあったらなーってシチュエーションが何回かあったみたい」
「ああ、酒のラベル……まあ、高崎先輩らしいと言えばらしいですけど」
大したことじゃなくてよかったとは思うけど、確かに酒のラベルは読みたくなるからその時の高崎先輩の気持ちなんかはわからなくもないかなと。うーん、でも、だからって返すのもちょっと違うだろうし。どうすればいいんだろう。
そうこうしている間に4限が始まって、映像を映すために教室が暗くなった。こうなるともうダメだ。起きていられる気がしない。ドイツ語で結構寝たと思うんだけど、それでも睡魔は絶えず襲って来るから怖いんだ。
「タカちゃん」
「……あ。寝てましたか」
「うん。今日小テストある日だから映像ちゃんと見ないと」
「はい」
果林先輩が小声で小突いて起こしてくれる。これがなければ俺は完全に小テストを解くことも出来ず、今日の出席はカウントされなかったと思う。小テストの日はその解答が直接出欠になるみたいだから。
授業中に寝ているから夜眠れないのか、夜眠れていないから昼眠いのか。わかるのは、俺はまだまだ昼夜逆転に近い生活リズムを改善できていないという事実。せめて2時なのかなあ。エイジに監視してもらいたい気分だ。
end.
++++
ドイツビールのラベルを読みたいだなんてさすが高崎、ブレないぜ! と言うか高崎の財力なら電子辞書でも買えるのに
タカりんは相変わらずかわいいし、かわいいは正義だしタカりんはかわいい。何が言いたいってタカりんはかわいい
やっぱりTKGは授業中に寝てるから夜寝れなくなるっていうのもちょっとあるんじゃないかしら……