「あっ、あーっ! 破けた!」
「ん、破けたらもう1回くるんで誤魔化せばいい」
「なかなか上手く出来ないものですね……よし、もう1回」

 初心者講習会前日の夜、僕の部屋にはだし巻き玉子の匂いが充満していた。台所では、コンロの前で野坂が悪戦苦闘。平らな場所という場所には不格好なだし巻き玉子が所狭しと置かれていて、訓練の壮絶さを物語る。
 事の発端は、野坂を駅まで送る車内での会話だ。どうやら対策委員は明日の講習会でお弁当のおかずを各々作って持ち寄ることになっているらしい。野坂の本来の担当は唐揚げだ。だけど、急遽講師に決まった菜月さんのために野坂がだし巻き玉子を作りたいと。