「雨宮先生、忙しそうですねえ」
「締め切りが……締め切りが……」
今日はアヤちゃんと一緒に作戦会議。だけど、うちは昨日降ってきたネタを形にするのに忙しいよね。冬のコミフェには例によってアヤちゃんと一緒に参戦するし、宿は東都で一人暮らしをしている姉のエリナさんにお願いしてます。
うちのサークル“Rainbounds”では新刊も出すし、既刊もちょっと増刷した。そっちはとっくに出来てる。厄介なのは、イベント前に突発でコピ本を作りたくなるこの病! だって、ネタは新鮮なうちに料理しなきゃって言うでしょ?
「でも、日付的にまだもうちょっと余裕ない?」
「ないの! カズが23日から25日朝までは趣味活動禁止って言ってきて」
「あー、2日ちょっと取られるのはしんどいねえ。でもクリスマスのデートだから仕方ない。たまにはカズさんの言うことも聞いてあげないと」
「仮にそのデート中にいいネタが降ってきたとするでしょ?」
「うん」
「コミフェが29日から。そこまでに書かなきゃじゃん。だから、今書いてるのを急ぎたい、急がなきゃいけないんですよ。綴じるのが何気に面倒だし」
「いくらでも手伝うのに」
「アヤちゃんに手伝ってもらう前提ですよね。いつもいつもお礼が献本ばかりで申し訳ないです」
「雨宮先生の献本ほどありがたい物はありませんから! それに、お姉さんの部屋にも泊めてもらうのに!」
アヤちゃんはアヤちゃんでコスプレに忙しい冬のコミフェだけど、うちはうちで忙しい。自サークルの活動のほかに、どこをどう回るかの計画を立てないといけないし、片桐さんとの合同本のこともある。あっ、そっちの新刊も出まーす。
クリスマスのデートでもそういう趣味に繋がるようなことを考えないようにとは言われてるんですよね。誓約書まで書かされたんだから。でもさ、街歩きでネタを拾うのは物書きの性じゃないですか。やめろって言われてやめられれば苦労しないよね。
「それでねアヤちゃん、片桐さんが新刊出すって言ってるんですよ」
「えっ、片桐神の新刊!?」
「昨日すっごい目が疲れてたのか、「眼精疲労で死にそうになりましたが新刊出ます」って文を「死刑」って読んじゃって」
「全然読めないけど?」
「“刊”の字と“刑”の字って似てない?」
「似てなくはないけど。たまちゃん本当にお疲れなのよ……原因は絶対にスマブラのやりすぎよ…!」
「知ってた!」
ちなみにコピ本の作業をやってる間はゲームを封印してます。スマホゲーのログインだけはしてるけど、本の方に集中するよね! Rainboundsと言えば突貫コピ本みたいになってるし、弾は多い方がうちが楽しい。
「でもだよアヤちゃん、神の新刊ですよ? 死刑にも等しくない?」
「等しい」
「でしょ!? 片桐神が目・肩・腰の痛みと戦って発行した新刊ですよ。うち、片桐神にこないだアリナミン差し入れたもん」
「欲しいものリスト公開してたヤツ?」
「うん。小さいヤツだけどね。DMしたらマジで助かりますって返信来たよ。今度うち個人用にグッズ作ってくれるって」
「えー! 神がたまちゃんのためだけにグッズを!?」
「片桐神のペンは神罰の杖だから」
ちょっとそろそろ自分でも何を言っているのかわからなくなってきたけど、お喋りで頭が回ってる分手の方も絶好調ですよね。めっちゃ捗る捗る。アヤちゃんは作業中のうちを眺めながら、お仕事くださーいと待機中。
「アヤちゃん、お仕事頼んでいい?」
「はい! 何をしましょうか雨宮先生」
「紅茶淹れて欲しいの。お砂糖はね」
「スティックシュガー半分でしょ? 知ってるよ、たまちゃんの好みは」
「さすアヤ」
「紅茶のことなら任せて! 研修先でもミルクティー淹れるの上手になってきてるから!」
アヤちゃんのバイト先、と言うか厳密には研修先がまた結構特殊なところらしいよね。話を詳しく聞くと本にしたくなるから今は聞けないんだけど、研修先の先輩っていう人がミルクティーを飲む人で、アヤちゃんはお茶汲みもしてるって。
その先輩がなかなかアヤちゃんをスタッフにするのを認めてくれないみたい。アヤちゃん的に簡単に認められても張り合いがないそうだけど、一番高い壁になってるその先輩に認められるまで頑張るんだって。
って言うかそのバイト先関係の話が本当にオイシくて絶対本にしなきゃじゃんね。頭のいい人には変人が多いっていうけど、さすが星大は変人の巣窟なんだなってよーくわかる話だよね! アヤちゃんも例に漏れず変人、もとい変態だし。
「ん〜、おいし〜」
「雨宮先生の手となり足となり」
「良き相方を持ちいと幸せなり」
「アレだよ、私がたまちゃんに紅茶を淹れるのはたまちゃんが片桐神にアリナミン差し入れた感覚」
「意訳すれば……がんばれっ、がんばれっ、しんかんがんばえっ」
「そういうことです」
「えーん、分裂したいよー」
「分裂?」
「デートするうちと原稿やるうちとゲームやるうち〜」
「大丈夫だって。たまちゃんワーカホリックすぎてユニット説出てるじゃん。雨粒のごとく無数に降り注ぐ雨宮って」
とりあえず、現行の原稿の締切は今日の5時! それから刷って刷って綴じて綴じてって感じでわーって。……うちも片桐神に倣って欲しい物リスト作ってみようかな。ううん、あれは片桐神クラスだから成立するものだ。うちは地道に頑張ろう。
end.
++++
冬もこの季節がやってきました。雨宮先生は例によって突貫で何かを作っているようです
って言うか片桐神にアリナミン差し入れたんかいwww これは兄さんがゼミ室の席にアリナミンの小瓶置いてるヤツや
たまに慧梨夏が何を言っているのかよくわからないときは、原稿ハイみたいな感じになってるんだろうなあ