昨日、菜月は息も絶え絶えに僕に訴えて来た。「明日のオンエアを頼む」と。今日は火曜日で、昼放送は菜月・野坂ペアのオンエア日だ。MMP昼放送は食堂の事務所から予め収録した音源を再生することでオンエアする。正直、ミキサーだけでも何ら問題ないのだけど、敢えてそれを頼むと言ってきた意味だ。
 疑心暗鬼に思いつつも食堂事務所に足を伸ばすと、番組は担当ミキサーの野坂がいつものようにそつなくオンエア作業をしているところだった。と言うか、野坂によれば普段も別に菜月が何かをしているわけではなく、ただその場にいて昼食をとっているだけだと。それなら何も僕がいなくても。そう思ったときのことだった。

「まさか、このタイミングを狙って来るとは思わなかったよ」
「正直、圭斗先輩が機転を利かせてくれて本当に助かりました。ありがとうございました」
「ん、お礼なら菜月さんにね。僕に「オンエアを頼む」と言って来たのは彼女だ」