街もキラキラと輝きを増す12月、慌しさのあるこの星港という街も例外ではなく瞬いている。
俺はと言えば、久々になるIFサッカー部の活動後の足でよっぺと男2人、何か甘いモンでも食べたいよねーとふらふらしているけど。
伊東クンはクリスマスも彼女とラブラブなんでしょ、なんて人を茶化すよっぺには、そうなればいいけどどうなるやらと不安を隠すことをしない。趣味に生きる彼女が俺を見てくれるかどうか。
「よっぺだってその気になりゃ彼女なんてすぐ出来そうだけどね」
「うわー、勝者のヨユーってヤツ〜?」
「そんなんじゃなくて一般論だよ。だってよっぺは背も高いしイケメンだし、ちょっとチャラめだけど実際優しいし」
「やっぱチャラく見える? 黒髪にしたんだけど」
「金メッシュ時代のイメージかな」
俺たち大学3年生は就職活動も始まるということで、それに不利になるオシャレを捨てる必要が出てくる。金メッシュを入れたよっぺの髪だったり、ピアスが付いてる高ピーの耳だったり。
結局、どの店に入るかねとふらふらしているうちに、地下鉄の一区間は歩いてしまっていた。今ならどこへ行こうと就活だのなんだのって、ちょっと重くなりそうな雰囲気。
「は〜、なーんか独り身の侘びしさとか就活の重苦しさを吹き飛ばす出来事ってないかな〜」
「そう都合良くはないっしょ」
「高崎クンと議長サンのデート現場にばったり遭遇したりしないかな〜、絶対楽しい」
よっぺは本格的に退屈しているような素振りを見せる。みんなともご無沙汰だし久々にIF3年会でも開こうかな、と呟いて。どうやらサークルの引退で出来た時間を持て余し気味らしい。
「ねえ、ちょっとよっぺよっぺ」
「どしたの伊東クン」
「あれトオルじゃね? 前歩いてるあのグレーのコートの」
「ウソウソ!? 女の子と腕組んでるけど正真正銘石川クンじゃん!」
右手には何かお菓子を買ったんだろうなというような袋を提げ、左腕には女の子。独り身の侘びしさや放置されそうな不安、それに就活がどうしたなどという重い雰囲気は一気に吹き飛ぶ。
トオルに声をかけようかどうしようか、そんなことを話す自分たちが挙動不審なのは明らか。人違いの可能性は少ない以上、デートを邪魔するか否かを相談する俺たちに外の世界は見えない。
「あイタっ」
「お前たちが一緒だということは、噂のIFサッカー部か?」
「ちょっと石川クン、急に立ち止まらないでよ〜」
「お前たちの気配が大きすぎるんだ」
どうやら俺たちの怪しい空気はトオルまでだだ漏れだったらしい。右手に提げた袋には、最近この辺に出来たらしいチョコレート専門店の名前が印刷されている。
女の子の方は相変わらずトオルの左腕に自分の腕を絡めたまま、一歩下がる。急に現れた俺たちを警戒しているのか、邪魔をしないように下がったのか。
「てかトオルお前、彼女いたんだな。見た感じ結構年下?」
「何を勘違いしているのかは知らないけど、俺の妹だ」
「えっ、妹?」
「石川クン、妹ちゃんと腕組んで歩くの? 仲良しなんだね〜」
妹だと紹介されたその子は、沙也ですとぺこりと頭を下げた。あんまり似てない兄妹なんだね〜、とよっぺが見たままの感想を伝える。
そして、そういうことだからとトオルはまた街の雑踏へと消えていく。その左腕には、変わらず沙也ちゃんの腕がある。うーん、俺も姉ちゃんと腕組んで街を歩……ねーわ。
「ねえ伊東クン」
「どした?」
「家族で過ごすっていうのも、いいかもねえ」
「おっ、悟った?」
それ以前にバイトあるんだけどね〜、とよっぺは現実を笑った。きっとサンタ服を着て接客することになるんだよ、と。何だかんだ、決まりきった予定からは抜け出せそうになく。
「じゃあ、俺クリスマスデートで彼女とよっぺのお店行くわ。8時に2人予約で」
「え〜、伊東クンそゆコトする? 全力で冷やかすよ」
end.
++++
洋平ちゃんと石川兄妹を詰め込んだらこんなのになったけど2つの独立したお話にすべきだったと少しだけ思っている。
と言うか腕を組んで歩く石川兄妹な! 仲良し兄妹にも程があるだろこのシスコンめ! チョコも2人で分けて食べるんだなきっと。
石川兄妹は似てないと言うより石川兄の顔にインパクトがないと言うか、メガネが本体と言うか。メガネを外した状態でよーーーく見ると目元がほんの少しだけ似ているとは美奈談。