部屋に漂う美味しそうな、幸せの匂い。小麦の誘惑とはまさにこのこと。果林先輩がお腹空いたーと叫ぶ声も真剣味が違う。ふっくら膨れたパンは焼き色もキレイ。

「うん、何とか形になりそうだね」
「いっちー先輩おなか空きました」
「もうちょっと待って」

 このパン焼き大会が開かれているのはカズ先輩の部屋。オーブンレンジが学生の一人暮らしで使うレベルのものじゃないなあと思うけど、だからこそ開けた大会でもある。
 部屋でパンを焼こうと思うんだよね。そうカズ先輩が思い立って、白羽の矢が刺さったのがハナだった。パン屋さんでバイトしてるからだと思う。食べ物の気配に敏感な果林先輩も一緒に焼くことになった。