しばらく振りに地元に戻ると、言いがかりと言うか何と言うか、うちに言われても仕方のない恨み節で迎えられた。今日は晴れているけどどれだけうちは嵐を呼ぶ娘扱いされているのかと。
特急を降りた駅のロータリーで親の――芽依ちゃんの車に乗りこむ。雪で真っ白に染まった町を眺めながら、誰かさんが帰ってくると雨や雪がヒドくなるからこっちは大変よというクレームを処理して。
「菜月、どこかでご飯でも食べて帰ろうか」
「いいね」
「こないだ緑風に初めて出来たお店があってー、気になってるんだけどそこはどう?」
「へえ、こっちにもいろいろ進出する時代になってるんだなあ」
地元に戻るのは大学の講義期間が過ぎてから。数ヶ月地元にいないだけで町は随分と様変わりして、置いてけぼりを食らうような気にだってさせられる。
1年の時は24時間営業のファストフード店が出来た。うちの市にもついに24時間営業の店がと感動した覚えがある。2年の時は、うどん屋が出来た。うちの中で起きたかけうどんブームの火付け役。
「で、何が出来たの?」
「あのね、“髭”っていうお店で喫茶店なのかな? 会社の友達が言うには甘いのが美味しいとかって」
「へえ、髭が緑風にも出来たんだ」
「あら、知ってるの?」
「知ってるも何も、向島の店だし向こうには腐るほどある」
それなら違う店にしましょうかと芽依ちゃんがしょんぼりするけど、うち自身そこまであの店に入ったことがない。圭斗はたまに行っているみたいだけど、車がないとどうにもこうにも。
結局そのまま髭に向かうことになって、芽依ちゃんもご機嫌だ。うちはと言えば、流れる景色の白さに目を細めて。と言うかこっちが晴れてるって珍しいなあ。
「あ」
「どうしたの」
「いや、向こう。あの鍋屋がこっちに進出してきたんだと思って」
「あれも向島のお店?」
白の中に目に付いた赤い看板。あの店にも向島で見覚えがある。辛い系の鍋の店で、菜月さんはきっと好きだと思うよと誘われて圭斗と一度入ったことがある。実際に美味しかった。
「向島の店は緑風に進出してきてるんだから、緑風の店も向こうに進出すればいいのに」
「ラーメンとか?」
「ラーメンとか」
ただ、向こうには向こうで好きなラーメンはあるけど、やっぱり地元に戻ったら地元だからこそのラーメンが食べたいと思う。発祥の地だからこその味と言うか、気分と言うか。
向島で緑風の店を見かけたところで懐かしさを感じて立ち入るようになるかと言えば、そのときにならないとわからない。でも、懐かしさを感じる味をその土地土地に持つのは悪くないことだと思う。
「今度うどん屋の向かいに家具屋がオープンするよ」
「えっ、ウソ!?」
「2月くらいだって。今建設してる」
「うちの市も発展して来てるなあ」
「アンタが大学を卒業して戻ってくる頃にはどうなってるかしらね」
「さあ、こればっかりはわからない」
とりあえず、髭に着いたら店の外観を写真に撮って圭斗にメールでも送ろうと思う。きっと昨日までの天気で積もった雪も写り込んで、場所が緑風だということはわかるだろう。
「アウトレットモールだって出来るかもなあ」
「あら、それはもう2年後のオープンが決まってるわよ」
「ウソ!?」
end.
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菜月さんが実家に戻られたようで、お母様の芽依ちゃん(年齢不詳)ときゃっきゃしております。ナノスパを代表する友達親子。
ちょっと地元にいないと置いてけぼりを食らうというのはよくある話。菜月さんの知らない間に地元は結構様変わりしていたようです。
奥村家は芽依ちゃんが初期の頃にたま〜に出てきてたからSSにしても大丈夫そうな雰囲気を感じた!