「のーさーかーくーん、あーそびーましょー」
――と呼んだところで野坂さんが出てくる気配はなく。代わりに出てくるのは本人がまだ寝ていることを告げに来るお母さん。悪いけど少し待っててくれる、と通された野坂家のリビングはお正月模様。
「ゴメンねこーたくんフミがいつも」
「いいえ、それを見越した時間に来てますので」
「これ、よかったらどうぞ」
「お構いなく」
出された最中は包み紙だけでもそれがそこらのスーパーで買ったような物ではなく、ちょっといいものだというのがわかる。お構いなくとは言いましたけど、ここはありがたくいただきましょう。
正月早々野坂さんに何の用事なのかと言えば、昨日、スカイプでの通話中に初詣に行きますかという約束をしたんです。それじゃあ私が迎えに行きましょうと。そしたら例によってこうですよ!
なーにが厄介って、午後1時に迎えに来いと言ったのは他でもない野坂さん本人なんですよ。自分で時間を指定しといてまだ寝てるって。まあ、それを見越して12時半に来てるんですけど。
「あ〜、こーたあけおめ」
「野坂さん目がまだ開いてないですよ」
「フミ、アンタさっさとその間抜け面と寝癖どうにかしなさい」
誰に似てこんなに腑抜けた子になったのかしら、と野坂さんのお母さんが溜め息をつく様子は、野坂さんがヒロさんに対して呆れている様子をコピーしているように見えたり。
さすがに寝起きの顔は普段がイケメン詐欺だろうと腑抜けている辺りまだ救いですね。これで寝起きだろうとイケメンだったら張り倒しているところでしたよ。
「こーたくんはお家でお正月の挨拶なんかは済ませたの?」
「はい、一応午前中にみんな揃って挨拶をして、私を除く家族は弟の彼女の家にお呼ばれしていまして今はそっちに。野坂さんのお宅はどういった感じなんですか?」
「一応朝からフミ以外はみんな揃ってお雑煮食べたりはしてたんだけど」
「ああ、雅史クンは例によって昼夜逆転してるんですね」
「そんな調子で成人式実行委員でも迷惑かけてないか心配で。サークルでも遅刻ばっかりしてるみたいだし」
お母さんの心配はごもっとも。先輩に菓子折りでも差し上げなきゃいけないレベルかしらと(飛び火でローキックを食らう私にはとても笑えない)冗談が飛び交って。
そんな話に花を咲かせている合間にも野坂さんがリビングを何回か往復するんですよ。その度に服が少し変わったり、目の開き幅が大きくなったり、些細な変化こそ見えますけど。
ゆず風味の白あんが挟まった最中はとても美味しい。お茶を飲みながらお母さんといろいろな話をしていると、野坂さんを待つこの時間も苦痛ではなくなってるんですよね。不覚ですけど。
「こーた、準備出来たぞ」
「あ、もうちょっと待って下さい」
「は?」
「今こーたくんにラッピングの仕方教わってるところだから。上手なのよー」
やっとイケメン詐欺の野坂さんが完成したときにはお母さんとの話が盛り上がりすぎて。私がいつもバイトでやっているギフト包装の仕方なんかを教える流れになっていたりして、何が何やら。
「何で時間ぴったりに準備出来たのに待たなきゃいけないんだ」
「何を言いますか野坂さん! あなた私が早めに迎えに来なかったら絶対まだ寝てたでしょうが! 待つ方の身になりなさい!」
「フミ、アンタこーたくんの爪の垢でも煎じて飲んだ方がいいわよ」
「俺までウザドルになってしまう」
「イケメン詐欺の時点で十分ウザいので安心して下さい」
end.
++++
地元が同じ、という意味ではこの組み合わせもありかなと思いました。という感じのノサ神、と言うかノサママと神崎。
千佳子さんがいようが普通にノサカを叱り飛ばす神崎はさすがだなあと思います。爪の垢も煎じて飲ませたがるわそら。
って言うか、ノサヒロでヒロからされているようなことを神崎相手にやってるノサカも十分自由人だったという罠。