「芹ちゃん23歳のお誕生日おめでとー!」
その声とともにパンッとクラッカーがひとつ弾ける。しかしそれを鳴らした人と比較すると、主賓、そしてオレの温度差は激しい。あまり盛り上がらないことに対し、主催の青山さんが不思議そうにしている。
「――って、芹ちゃんもリン君もテンション低くない? ねえ」
「何故オレが春山さんの誕生日を祝わなければならないのかと」
「和泉、正月は地元の悪友とずっと飲んでて胃腸の調子が悪いって言ったよな?」
そんなオレたちを見て、どうしたらいいのかわからないといった様子で微動だにせず紙コップを握っている川北が最たる被害者であることには違いない。
青山さんが「情報センターでバイトしてる子も連れてくるといいよ」と言うから、避雷針は出来るだけ多い方がいいと思って声をかけたが、今となっては巻き込んで申し訳なく思っている。
「だーいじょうぶ! 今日は七草の日だからね。胃腸の調子が悪い芹ちゃんのために七草粥の準備は出来てるし!」
「今から作るのか?」
「もちろん。芹ちゃん台所借りるねー」
青山さんが本当に七草粥を作れるのか不安になるような音がドンガラガッシャンと台所に響く中、地蔵のように固まっている川北に気付いたらしい春山さんが声をかけた。
「川北、無理はするなよ」
「いえ、圧倒されているだけで」
「和泉はああいう奴だけど、そのうち慣れるだろう。なあリン」
「春山さんの相手が出来るなら青山さんの相手も出来る」
川北がようやくチビチビとオレンジジュースを飲み進める中、春山さんがオレの紙コップに大量の焼酎を注ぎ込む。溢れそうになったそれを啜ると、さらに同じ物が流れ込む。
「急に何をするんですか」
「今日は私が主賓だし、好き勝手にやらせてもらおうかと。リン、私の酒が飲めないか?」
「それなら、春山さんも飲みますよね」
「ちょっ、リンお前何するんだ、こぼれるだろ」
「あなたと同じことをしただけです。この際無礼講でしょう、青山さんが七草粥を作ってますし」
どちらかが紙コップの中身を飲み干せば、どちらかがこぼれる勢いで継ぎ足していく。空きっ腹でやることでもないが、多少の無茶はこの際関係ない。
もう少しかかるから俺もー、と台所から戻った青山さんが割って入り、紙コップの中に酒が注がれるのを待っている。ただ、それを知った上で注いでやるほどオレも春山さんも素直ではない。
「ずずず……」
「ずずー……」
「――って芹ちゃんもリン君もわざとやってるよね。いーよもう、手酌するしー。そゆコトするなら芹ちゃん潰すから覚悟してよねー」
「和泉、お前、芹の花言葉を知ってるか?」
「花言葉? 知らなーい」
「「清廉で高潔」だ。今年はこの言葉を胸に生きようと思う。お前に潰されるなんて以ての外だ」
そう決意を新たにした春山さんだが、この花言葉にオレと川北が目を合わせた意味はきっと同じだろう。「清廉で、高潔…?」という疑念以外にはない。春山さんに最も遠い言葉ではないか。
「林原さん」
「言うな、川北。お前も潰されるぞ」
「俺、お酒が全く飲めない体でいた方がいいですかね」
「そうだな、自分の身は自分で守れ」
新年早々とんでもないところに巻き込まれたが、これを乗り切ればしばらくは耐性も残るだろう。清廉で高潔には程遠いこの空間で生き延びることの出来る生命力くらいはつくかもしれない。
end.
++++
春山さんの誕生日が1月7日に決まったところで、春山さん界隈のキャラを呼んで誕生会を開いたけど、うん、ミドリ頑張れ!
リン様とミドリのやりとりで新鮮なのは「先輩・リン様」というほとんどやったことがないところのこと。
春山さんと青山さんのやりとりがどんどんディープになっていくからね、巻き込んだ手前後輩は守ってあげなきゃねリン様!