「Lー! サッカー見るぞ!」
そう言ってカズ先輩は人の部屋に押し掛けてきたけど、正直俺は昨日バイト朝の3時上がりだったし寝起きだからめちゃ眠い。でもサッカーに懸けるこの人の情熱に俺の事情などお構いなし。
今日は高校サッカーの決勝が行われる。俺も高校時代はサッカー部だったし興味はあるけど如何せん眠い。と言うかこの人国内だろうと海外だろうとプロだろうとアマだろうと節操なしだな。
「つーかアレじゃないすか、決勝で同じ地方同士が当たるとか地味すよ。地区大会で完結、みたいな」
「お前が地味を語るとか、偉くなりやがったなLのクセに」
「ええ!?」
「同地区だからこそ対戦経験もあるだろうし相手の戦術やその他諸々もある程度わかってて熱いゲームになると思わないのかお前は!」
って言うかホントサッカーのことになると普段との温度差が凄まじいなあ。いや、インターフェイスでもIFサッカー部たる派生団体を作ってしまった人だけに熱くなるのはわかるけど。
そもそも、ただ観戦するんだったら俺の部屋よりカズ先輩の部屋の方がテレビだって大きいし部屋も広いしで環境はいいはずなのに、わざわざここに来る意味だ。
まあ、普段から「一人で見るのもいいけどどうせなら盛り上がりながら見たい」って言ってる人ではあるから今回もそんなようなことなんだろうけど。人選は俺が高校サッカーを通ってるからかな。
「カズ先輩は、今回決勝に出てる学校のデータもある程度持ってんすか」
「ある程度は」
「マジすか、ホント好きっすよね」
テレビからはわああと歓声が響く。俺はこんな大きなピッチに立ったことはないけど、想像するとやっぱりちょっと羨ましく思う。無理とわかっていても憧れる舞台ではあったから。
カズ先輩が今回の対戦校データをつらつらと語りながら、どういうところが面白くなりそうかを予想する表情といったら。どうしてこの人は部活でサッカーをやらなかったのか、ちょっとした疑問だ。
「カズ先輩」
「ん?」
「カズ先輩は、どうして自分はサッカーをやんなかったんすか? やればもっと楽しいと思うんすけど」
「あー、それな。今までも散々聞かれたんだけどさ」
中学までは学校にサッカー部がなく、高校ではどうしようか悩んだものの、ミニバスの経験がほんの少しだけあったから出来るかなーと思って結局バスケ部に落ち着いたらしい。
もちろん、サッカーをやるのも好きだけど、部活でひいこら言いながらやるよりは遊びでやる程度で十分だったとか。下手に見ている分、描くイメージに到達出来ないと最初から解っていたから。
好きなのと、上手くなるかならないかは別物じゃんな。そう言ってカズ先輩は、時には諦める判断も必要になることもある、と説いた。それがいつ必要になるかは、俺にはよくわからなかった。
「多分俺、身体能力とは別に球技に伸びしろがねーんだって。バスケも下手だし」
「才能みたいなコトすか?」
「うーん、何だろ。言葉で言うのは難しいけど、端的に言えばそういうことなのかもしれない。俺にはチームや国の名前を背負う必要のないIFサッカー部くらいがちょうどいいよ」
――とカズ先輩は言うけれど、サッカーを抜きに向島インターフェイス放送委員会の本題として考えれば、カズ先輩も十分MBCCやインターフェイスの名前を背負ったミキサーだなあと。話が違うか。
「やるやらないは別として、俺はサッカーが死ぬほど好きだ。それだけじゃダメか、経験者的には」
「いーえ、それだけで十分すよ」
end.
++++
高校サッカーの決勝が行われているとのことで急遽1本。例によってこの人が盛り上がっているけど今年は仕方ないね!
いっちーは本当に球技に伸びしろがなくてねえ……身体能力は高いんだけどねえ。反射神経とか動体視力とかさ。バスケも微妙とは慧梨夏談。
好きだから必ず上手くなるとは限らないけど、やらないから好きになれないというワケでもない。サッカーフリークいっちーのスタンス。