「あっ、関さん関さん」
耳にはイヤホン、手には文庫本。ゼミ室でのアタシは話しかけるなオーラを纏っているつもりだけど、そういうのもお構いなしの人がいるにはいる。
かけられる声には「おはよー」と形式だけの挨拶をして、ぺこり。言ってしまえばモブキャラの相川クンがアタシに何の用なのかと。
「大祭実行の友達がさ、関さんの友達のあの子をかわいいーとか天使だーとかって言っててさ。どんな子なのかなーと思って」
「あの子じゃわかんないよ」
「えーっと、確かポニーテールの」
アタシの友達でポニーテールと言えばみやっちだ。確かにみやっちはかわいい。しっぽが揺れる様はもちろん、目も大きいしスタイルもいい。でも今求められているのは中身、だよねえ。
みやっちと言えば引きこもりでバカップルで、脳内が腐ってて、彼氏さんに何から何までお世話してもらわなきゃ生活が成り立たなくて、BL大好きで、妄想のスピードが果てしなくて。
うん、ダメだ。アタシの知るみやっちをいろいろ思い浮かべてみたけど360度堕天使だったよう! ゲームしてたらご飯食べるのも忘れる集中力、ってこれもダメだ。
「あ、あの子彼氏いるケド…?」
「大丈夫大丈夫、そいつも彼女いるし、あんなかわいい子に彼氏がいないワケないって言ってるから」
でもカズさんて生易しいレベルの彼氏じゃないよねえ。家政婦とか奥さんとか、そういうレベルの彼氏だよねえ。みやっちのことをどう説明すべきか。難しすぎて目の前には星が回る。
それだけ普段みやっちとの会話は二次元だ萌えだというのがほとんどだということを理解させた。対外的なみやっち評がわからない。誰か助けてえ、ピザのお兄さんでも誰でもいいからあ!
「あっ、浅浦クン!」
「浅浦おっすー」
「相川クン、あの子のコトなら浅浦クンの方が詳しいよう」
当然、浅浦クンの頭の上にもクエスチョンマークが浮かんでいる。でも、今のアタシには頼れる人が浅浦クンしかいないのであった。それにみやっちのコトなら浅浦クンの方が実際詳しいと思う。
「宮林サンのことを?」
「うん」
「浅浦もあの子と知り合いなのか」
「知り合いって言うか、高校の同級生だ」
そして浅浦クンが相川クンに語り始めたみやっち評は、それこそ外に向けて宮林慧梨夏という子を語るには何とも輝かしいみやっち。
明るくて行動力があって、周りの雰囲気を良くして。そう言われればそういうところもあるなあと思う。そして有言実行なところもあると。どれだけ時間がかかっても言ったことは実現する執念深さ。
「まあ、そんな感じの人だな」
「へー、やっぱいい子なのか。サンキューな」
相川クンは浅浦クンの話で満足したのか自分の席へ戻っていった。きっとその大祭実行の友達という子に今の話をするのだろう。
「浅浦クンありがと」
「関さんには逆に難しかったかもね」
「ホントだよう」
「あの人が例えどんなに腐って爛れた生活をしてようと、今の話は嘘じゃない。あの人が有言実行で執念深いっていうのは今年の大学祭で実証されてるし」
「えっ」
「あの人は高校で自分が生徒会やってた時に学祭で女装コンテストを企画して、実際開催してるんだけど、そこで伊東を出場させる説得に失敗してるんだ」
「もしかして」
「5年の時を経て実現させやがった」
思い出すのは、今年の大学祭で作り上げられた男の娘・カズさん。あのクオリティは5年もの間みやっちの奥底で燻り続けた執念の結果だったのかと思うと、うん、オソロシーネ!
「みやっちがわからない」
「オンもオフも充実してるワーカホリック、一言で言うならリア充だな」
「それだ」
またひとり、居もしない天使に夢見る子が増えるのかと思うとちょっと心苦しいような気もするけど、地上での姿は見られちゃいけないというのは天使の定石ってコトで。
end.
++++
相川クンをもうちょっとキャラクター付け出来れば文学部話も出来るようになるかなと思ったりした浅浦クン&みなもちゃんのお話。
ちなみに相川クンの大祭実行の友達は飯野、みなもちゃんが心で助けを求めたピザのお兄さんというのは高崎のこと。
しかしみなもちゃん、相川クンを「モブキャラ」だなんて酷い言い様だ! 黙ってればおとなしい文学少女だよ!