「あっ高崎、ちょうどいいところに」
「げっ」
エムシスボックスでテスト関連情報を引き出してたら、ヤバい奴に見つかった。赤茶色のミディアムヘアが揺れ、ニコニコとした目は決して笑っていない。狩人の目と言うのがいいだろう。
「俺に何の用だ、デレツン」
「デレツン言うな」
「はいはいスイマセンでした」
「ねえ、晋哉知らない?」
「生憎、飯野の所在はこっちが聞きたいくらいだ。残念だったな」
この狩人のような女は長浜舞、飯野の彼女だ。外ではデレデレ、内ではツンツンしているからデレツン。にも関わらず、俺相手だとそのツンツンを隠そうともしやがらない。
飯野が引きこもって所在不明になるのなんざ今に始まったことでもねえんだから放置でいいじゃねえか、と思わないこともない。別のバカップルの事例がそのまま当てはまるとも限らないが。
「まいまい、ほっとけばそのうち出てくるよお」
「だな。お前も飯野のパターンは知ってんだろ?」
「どーせゲームやってんでしょうね」
「だからさ、前々から言ってるけどまいまいも彼氏サンの部屋で住み込めばいいんだって! アタシの友達は彼氏サンがその子の部屋にほぼ住み込んでるよ」
このお団子頭に赤いメガネをかけたデレツンの友達には見覚えがある。バイトでピザを配達する頻度の高い部屋の主だというのもあるけど、そのマンションが曰く付きだからこその記憶。
すると、向こうの方も俺の素性に気がついたのか、一瞬目が合ってぺこりと会釈された。まあ、そうなるとこのメガネっ子の言う友達カップルはあのバカップルで間違いないだろう。
「お前、飯野の部屋の鍵持ってねえのか?」
「さすがに鍵は持ってないよ」
「趣味にまっしぐらで引きこもり属性の人間と付き合うなら、完全にノータッチ決め込んで生温い目で見守るか、いっそ合い鍵奪って家政婦化する覚悟がねえと上手くいかねえぞ」
もちろん、それで上手くいくかと言えば保証は出来ない。某バカップルが特殊な例だということもわかっている。そしてデレツンは俺の腕にしがみついて強請るのだ。ノートを楯に部屋の扉を開けさせろと。
「ねー高崎ぃー何とかしてー!」
「うっせぇなこの野郎」
「コラまいまい、人に迷惑かけない!」
「みなも痛い!」
メガネっ子がデレツンの腕を文字通り叩き落としてくれて解放されたものの、それでも飯野を出せコールは止まない。俺にどうしろと。そして、メガネっ子も思い出したように俺の顔を見て言うのだ。
「そう言えば、カズさんからもみやっちが外に出て来ないから何とかしてくれって頼まれてるんですよお。お兄さん何とかなります?」
「ったく、どいつもこいつも」
そして浮かんだ策に携帯を取り出せば、キラキラ輝くデレツンの目はデレの方。本屋前でコピーした必殺の武器を、それぞれデレツンとメガネっ子に渡して後はおまかせ。
宮ちゃんには俺の持ってる月曜3限のノートを、飯野には宮ちゃんからコピーさせてもらった木曜2限のノートを楯に、単位が欲しけりゃ表出ろ、とメールで一報。
「俺に出来る手は打ったから後は煮るなり焼くなり」
「お兄さんすてき!」
「毎度ご贔屓に」
「きゃー高崎すてきー」
「お前か飯野は今度ソースカツ丼奢れ」
そう言えば、元々俺何してたんだっけか。どうしてこんなめんどくせえことになってんだ?
end.
++++
飯野の彼女のデレツンを話に出したのは初めて。みなもちゃんとどこかで繋がりのあるお友達のようです。
と言うかみなもちゃんね。人を叱るときに手から入るのかしら。或いは慧梨夏やデレツンには遠慮がないだけ?
高崎が慧梨夏orいっちーに何か奢れと言わないのは、高崎も慧梨夏から木曜2限のノートをもらってるのと、いっちーが不憫だからだよ!