公式学年+1年
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「そろそろ秋学期も終わるから、みんなゼミ合宿のことも考え始めてね」
佐藤ゼミの恒例イベントとなっているのがこのゼミ合宿だ。厳密には、卒論発表合宿。来年からゼミに入る1年生から4年生まで、全学年が揃う唯一のイベントともあって、かなり大がかりだ。
2泊3日の日程では勉強だけじゃなくて遊びの時間も充実しているけど、学年ごとに社会学的要素を入れた企画は用意しなければならない。その担当に当たると大変なことになるのは目に見えてる。
「そうそう、2年生からはお酒も解禁されるからね。飲みたい子は自分で持ってくといいよ」
先生のその言葉に、みんなの視線がこっちに向いたような気がした。お恥ずかしながら、俺は普通に飲んでいるだけなのにゼミでも酒豪キャラとして定着しつつある。これもMBCCの血か。
「君たちも3年生に入ってからの個人研究は卒論にかかってくるからね。高木君、お酒もいいけどしっかり聞きなさいね」
私はゼミは割と適当に成績をつけるけど、卒論だけはかなり厳しく成績をつけるからね、その私が推薦した成績A以上の論文しか発表させないから居眠りなんかしたらどうなるかわかってるね?
――なんて、先生の演説が始まるとなかなか止まらない。それにはみんな慣れてきているのか、聞いているそ素振りで右から左、なんていう技も身につけているらしい。俺も然りで。
「しかし、ゼミ合宿なー」
「去年の感じだったら食料はもっとあっても良さそうだね、お酒も飲めるし」
「まーあれだ、酒解禁って言われた瞬間お前に刺さる視線ハンパなかったじゃん?」
「俺、そんなに飲んでるかな」
「飲んでないつもりだったら麻痺してるかただのバカだし!」
「安曇野さん」
ようやく先生の演説から解放されると、去年の映像を見ながらの話し合いが始まった。2年生の企画担当は班ごとにクジを引いて決めることになったんだけど、まあ、例によって俺たちの3班に当たりましたよね。
「酒豪で疫病神で雨男とか呪われてるし!」
「酒豪はともかく、確かに高木の疫病神っぷりは凄まじいな」
「ゼミの活動を頑張ってるって見なされていい成績くれないかな」
「ゼミの成績は適当につけてるって言ってたばっかだし」
例によって当たりクジを引いてしまった俺に対する風当たりがキツい。「佐藤ゼミの学生は全員1回はゼミの活動で幹事ならびにそれに準ずる働きをすること」という決まりはあってない状態だ。
安曇野さんはゼミTシャツのデザイン、鵠さんはバーベキューの2年幹事。佐竹さんはゼミのリーダーに定着している。俺はオープンキャンパスや学祭ラジオのミキサーが一応それに当たるらしい。
アタシらもたまにはラクしたいし、と安曇野さんが言うのには大いに乗っかりたい。だけどあの先生がそうそう俺たちにラクをさせてくれるかと言えば、させてくれないだろう。
「そうは言っても唯香さん、ナンダカンダ刺激ないとつまんないでしょ?」
「ああ、やることがねーとヒマだなんだって文句垂れんの全然想像出来んじゃんな」
「まあ、引いたモンはしょうがないし企画やるけどさ!」
3年生になると班編成がなくなるというけど、きっと、こんなような感じでいつものメンバーが動くことになるんだろうなという予感がした。言うと、本当になりそうだから言わないけど。
end.
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秋学期が終わると佐藤ゼミのあれこれの活動が強くなるのはゼミ合宿があるからでしょう! 今年は3年生(果林たち)も動かしたい。
佐藤ゼミ2年生で1番飲むのはもちろんタカちゃん。ゼミの他の子もタカちゃんが顔色ひとつ変えずに淡々と飲むのに最初は多分驚いたはず。
タカちゃんは疫病神ポジションでも定着してきてるけど、なんだかんだで何事もなく過ぎるゼミに面白味を感じないのが3班メンバー。