「カズー! ねえカズどうしよう〜!」
「……ん…?」
午前6時、週末でテストも小休止ということで、また夜行性の生活を始めた慧梨夏の叫び声で目覚める。いつもなら朝っぱらからこんなに大騒ぎをすることはないんだけど、どうした。
ゆさゆさと揺り起こされて、目薬をひとつ。くっきりと、しゃきっとした視界で捉えたのは、慧梨夏が両の手を使って持ち上げるメガネ……のような物だけど。
「つか、壊れてね?」
「そーなの、夜も遅いしそろそろメガネに切り替えようと思ってコンタクト外したのは良かったんだけど、柄のちょうつがいのネジがイっちゃったのー!」
「夜も遅いしって、もう朝だからな」
「深夜30時でしょうが」
ここまで来たらそのまま朝のアニメでも見ようかな、とうきうきしている彼女には呆れるしかない。大体、普通にかけようとしただけで壊れるメガネってどんなだ。
落としたとか強い衝撃を与えたとかじゃなくて、普通にかけようとしたらネジがどこかへなくなっていただなんて。俺はメガネユーザーじゃないからその辺のことはわからないのだけど。
ひょっとしたらネジがどこかに転がってるんじゃないかと床はくまなく探してみたけど、床に這い蹲ってる様を慧梨夏がゴチソウサマですと言っていたのは聞かなかったことにしよう。
「腰だけ突き上げて伏せてる姿勢ってイイよねえ」
「お前、俺を見る目が本当に深夜の思考だな。何なら目覚めの一発食らわせてもいいんだぞ」
「アニメ始まるまでに終わらせてくれるなら、どうぞ」
――と言われて襲う気になるかと言われれば、ならないワケで。いっそこのままずっと寝かさないでおこう、と言うか寝たところで解放するつもりはなかったのだけど、お仕置きは未遂に終わる。
「お前、メガネの予備あんのか?」
「前のならあるけど、度が弱いから買いに行かなきゃなー」
「ならアニメ終わったら買いに行くか」
「やったー久々にカズの運転ー!」
「――ってお前ペーパードライバーに車運転させんのか!」
「じゃあカズは思うように見えない人に運転させるの?」
そして慧梨夏が財布から取り出して掲げたのは、運転免許証。ババーン、という効果音が聞こえてきそうなポーズ付き。深夜のナチュラルハイが続いてるんだな、きっと。
「見よ、この燦然と輝く「眼鏡」の文字を!」
「スイマセン、喜んで運転します」
バイクで出かけるにはまだ寒い。だから冬に出かける時は慧梨夏の車を使うことが多いんだけど、まさか自分が運転することになるとは。
「そう言えば今メガネ屋で年賀状のお年玉番号くじやってたなあ」
「何だそれ」
「年賀状の下の方に番号ついてるじゃん。あれが当たりだったら何割引、とか」
「でも年賀状とかほとんど書かなくね?」
「甘い。宮林慧梨夏名義ではほとんど書かないけど、雨宮珠希名義では結構書いてるし、いただいてるんです」
オタク活動の一環でもらった年賀状とメガネ屋のサイトで発表されている当たり番号を照らし合わせながら、割引の権利の有無を調べる様子は一応楽しそうではある。
「カズカズカズ! 8! 割! 引! やったー!」
「マジか!」
「ありがとうございます片桐さんやはりあなたはメガネの神かひゃっほーう!」
「はいはい、それじゃあアニメ終わったら出かけるぞ」
「はーい」
メガネ8割引の権利を手にした慧梨夏はさっそくどんなメガネにしようかうきうきしているし、俺はと言えば、いつもは絶対と言っていいほど引きこもる休日に慧梨夏と出かけることが出来そうでうきうきしている。――という意味では、壊れたメガネにも感謝だな。
end.
++++
それでも身バレしていないのは、どこかのイベントで会ったときにその場で宛名を書いて手渡ししたから、とかでいいんじゃないかな!
慧梨夏も結構目が悪いので普段はコンタクトを使っています。でも休みの日はほとんどメガネだよね! なぜなら楽だから!
そして朝からむっつりっちーなんだけどまあ、その辺はいっちーだしな! ちょっとくらいむっつりなくらいが健康!