「あっ、リンちゃん」
「さすが星港、誰かに会う可能性はあると思ったが、お前たちか」
街の中でばったり会ったのは、高校の同級生であるバカップルだ。割と最近高校の集まりで会ったはずだが、物珍しい物でも見たかのような反応をしてくる辺りが変わらないところだ。
「福井さん、久し振りー」
「……久し振り」
「カズ、知り合い?」
「うん。サークルの方で」
そう言えば、そうか。石川が高崎とサークル方面で知り合っているということは、石川と同じサークルの美奈と、高崎と同じサークルの伊東が知り合っていたとしても何らおかしくはない。
「リンちゃんと福井さんはどこ行くの?」
「これからティータイムがてら石川を冷やかしに行くところだ」
「ああ、バイト先に?」
「お前たちは聞くまでもないな」
「今朝、慧梨夏のメガネが壊れてさ。それに今年は忙しくなるからね。今のうちに外に出とこうと思って」
オレと伊東が簡単な立ち話をしているのを宮ちゃんがニコニコと眺めている。そして美奈も、気持ち引いたところからバカップルを眺めているようだった。
会話に混ざりこそしないが、どうやら興味がないワケではないらしい。噂に聞くバカップルの実態とやらをその目に焼き付けているのかもしれん。
「カズ」
「福井さんから話しかけるとか珍しいね、どしたの?」
「2人、結婚するの…?」
するとどうだ、宮ちゃんが一気に赤面しだすのだから、実にわかりやすい。美奈は急にどんなド直球を投げ込むのかと思ったが、興味の方向はそれか。
「美奈、急にどうした」
「指輪……カズも左薬指にしてるから……ペアリングだし、気になった……」
「あー、さすが福井さん。観察眼すげーや」
宮ちゃんの様子もあって黙り通すことは無理だと悟ったのか、伊東は降参した様子で美奈からの質問に肯定の返事をした。今年の付き合い始めた記念日に籍を入れるつもりでいると。
同級生がそういう次元に足を踏み入れているのかと思うと時間の流れを感じる。高1での一目惚れから始まって、よく続いたものだ。先に言った「今年は忙しくなる」というのは就活もだが、結婚の準備もあるということなのだろう。
「普段から指輪、してるの…?」
「普段はしてないけど、外デートのときはする感じで」
「プロポーズの言葉は…?」
「えっと、――って言わない言わない!」
「……そう」
「って言うか福井さんもリンちゃんも、この件は黙っといて下さいお願いしますマジでまだ浅浦にしか言ってないんで! リンちゃん、これをネタにいくらでも脅してもらっていいからトオルとか高校メンバーには……この通り!」
「ほう、浅浦にしか言ってないなら相当だな。わかった、黙っておこう」
美奈にも特にコイツには言うなというブラックリストが通知されたところで、オレたちが共有した秘密をさらに詳しく知りたくもある。だが、不遇な彼氏の貴重な外デートの機会を奪うのも哀れだ。
「伊東、今度飲むぞ。来なければどうなるか」
「ワカリマシター」
「デートの邪魔をするのも難だ。美奈、そろそろ行くぞ」
「お幸せに……」
「ありがと」
バカップルと別れ、改めて石川を冷やかしに歩く。何かを考え込んでいたような美奈が一言、ポツリと呟く。リンに、結婚願望は…? もちろん、まだこれっぽっちも考えたことはない。
そう考えると、伊東と宮ちゃんはこれからの人生に関わる大きな決断をしたのかと、らしくもなく尊敬の念すら覚える。結婚か。すぐにはしないだろう。
「将来的にはするだろうが、今は考えたこともない。そう言うお前はどうなんだ、美奈」
「カズの彼女を見て、羨ましいと思うくらいには……私の場合、恋愛から始めないといけないけど……」
「お前ならそのうち貰い手も見つかるだろう。どこぞのシスコン狸がその男を追い払ったりしなければの話だが」
end.
++++
美奈的には「リンにもらってほしいのに!」なバカップルmeetsリン美奈回。あと、美奈はいっちーの天敵。
あとね。いっちーと慧梨夏が俺らもドーナツ食べたいねって言ってたけどやめたの。雨宮さんと片桐さんが出会うと別の事件になるからね!
美奈へのブラックリストはインターフェイスだけど、特に圭斗さんには黙っといてね!って念押ししてあるよ!
(あとhuntって「狐狩り」という意味でも用いるみたいですねw)