「おはようございます…!」
「直クン、壮絶な戦いの後みたいだね」
両の手に溢れんばかりのギフトを抱えてサークル室にやってきた直クンは、どことなくくたっとして、お疲れモード。きっとこれは、去年よりもパワーアップしたかな?
「はい直クン、紙袋」
「紗希先輩ありがとうございます」
「直クンは今年も大漁だね早めのバレンタイン」
「好意を持たれるのは嬉しいですけど、ボクは去年も特にお返しが出来なかったのが辛いです」
女子校には男の子よりモテる女の子がいると言うけれど、青女の場合は直クンがそう。背も高いし中性的な顔立ちはキレイだし。さらに言動も紳士的となれば、王子様ポジションになるのも早かった。
去年のバレンタイン(と言うか厳密にはテスト期間)も直クンは知らない女の子からたくさんチョコをもらっていたけど、今年はどうやらさらに獲得量が増えたみたい。持ちきれないチョコをひとつひとつ確認しては、紙袋に仕舞っていく。
何が律儀って、とても一人で食べきれる量ではないのに、もらった物はひとつひとつ自分で全部食べること。その後はしばらく甘い物を受け付けなくなるみたいだけど、その様子は微笑ましい。
「断ることが出来れば楽なのかなとも思うんですけど、ボクのために準備してくれたのが無駄になると申し訳なくて」
「直クンは優しいよね。でも、何個かある本気のチョコ以外は芸能人にあげるような物だから、そこまで深く考えることもないと思うな」
「そうですか?」
「そう。だから、チョコをくれた子たちのためには今まで通りの直クンでいなきゃね。もちろん、もっと素敵になるのはオッケーだよ」
そして直クンは、紙袋に入り切らなかった物で手作りそうな雰囲気のある物の包みを開いた。中には美味しそうなトリュフが6粒と、小さく折り畳まれた手紙。
「でも、バレンタインか……」
「直クン、どうするの?」
「どうするか考えるために何か参考になりそうな物はないかなって見てるんです」
トリュフをもぐもぐと食べながら、自分はどうしようかと考えるその様をあの子たちが見たらどういう反応をするのかな。アイドルに恋人が出来た時みたいなことになるのかな。
「手作りかー、もらえる人は幸せだねー」
「あ、いや、カズ先輩も2月の定例会でマフィン配ってくれてたしボクもそれに倣って定例会で配ろうかなっていうので別にLだけに手作りの特別なのをあげたいとかそういうのではないんですよ本当ですよ」
直クン、ひょっとしなくても動揺すると核心を無意識に全部喋っちゃう傾向にあるのかな。まあ、それも可愛いんだけど。そうか、直クンはあの子に手作りでバレンタインギフトをあげたいのか。
「うふふ」
「えーと、紗希先輩聞いてます?」
「聞いてるよ。ラッピングのことならアタシに任せて」
「あ、いや、そんな大層なことでは」
「定例会で配るんでしょ?」
「あ、じゃあ……お世話になります……」
そんな内緒話をしていると、疲れた顔でKちゃんがサークル室にやってくる。その手には、溢れんばかりのギフト類。
「Kちゃん、大荷物だね。はい紙袋」
「ありがとうございます」
「Kちゃんもたくさんもらったね」
「アタシのじゃないです。直、そろそろ自分のファンを躾てよ」
「えっ?」
「アタシは直とよく一緒にいるから、直と会うならこれを渡してくれって押しつけられてんの。何時にここを通るかとか、会うにはどこに連絡を入れればいいのかってマネージャー扱い」
直クンが自分のバレンタインをどうするか考える中でも、どうやらまだまだ女の子たちの戦いは終わる様子が見えないみたい。この部屋を出て校門に差し掛かったら、第2回戦の始まり始まり。
end.
++++
まあ、そういうマンガめいたことをやってみたくなったよね! 冷やかす紗希ちゃんもかわいいでやんの。紗希ちゃんて「うふふ」って笑うのね。
さて、この話からするに春先の直クンは甘いものを見ると「うっ」てなっちゃうのね。ちょっとそういうところの話もやってみたいですね!
あとマネージャー啓子さんは様になりそうだしいいんじゃないかな!