「えくしっ! あー……」
「高崎クン大丈夫?」
「風邪ひいたらしい」
カバンの中からポケットティッシュを取り出して渡してあげると、そうそうこれこれと言わんばかりに受け取って鼻をかむ高崎クンが大丈夫じゃなさそうなのは明らか。
花粉は飛びそうだけどまだまだ冬は続くし、高崎クンも二輪乗りだから寒さが身にしみてるのかなと思う。バイトでも原付でピザを配達してるし、寒空の下を走り回ってたら風邪をひくには十分。
「つかバイトは最近車乗ってんだけどな」
「えっ、そうなの?」
「さすがに寒いのには勝てねえ」
「そうなんだ。そっか、一応車の免許もあったっけ」
えくしっ、とまたくしゃみをひとつ飛ばした高崎クンに、今度は鼻風邪タイプの風邪薬を差し出す。どうしてそんなモンを持ってんだという質問には、誰かさんの顔を思い出してと一言で。
持ち合わせていた水でその薬を流し込んだ高崎クンの首筋がとてもセクシーで、ただ水を飲むだけなのにここまで絵になるなんてさすが高崎クンだと感心せざるを得ない。
水を飲むのもいいし、そもそも風邪っぴきでぐずぐずなのも萌え滾るよね。こんなにオイシイモノを見せていただけるなんて薬やティッシュくらいやっすいモノですよ。いやはや、ごちそうさまです。
「でもツラそうだねえ。風邪ひく心当たりはあるの?」
「こたつで寝たら風邪ひくっつーのが正しいとするなら、それだろうな。つーかそれ以外にねえ」
「ああー、幸せだよねー」
「ああ、これ以上ない幸せだ」
うちにもおこたはあるからその幸せはわかる。こないだはカズと一緒にお鍋をつついて、テレビを見ながらカズの焼いたクッキーを摘んで食べてた。
おこたで寝てるとカズが「風邪ひくぞ」ってベッドに移るように言ってくれる。だからおこたで寝過ごしたことはあまりないけど、高崎クンの場合はおこたで寝ちゃったらもうおしまいだろうし。
「去年の年末かな、うちに拳悟呼んでたんだけどよ、待ってる間についうっかりこたつで寝ちまって。やっぱこたつ入れちまうと用事とかどうでもよくなっちまうな」
「えー、それ拳悟どーしたの?」
「鍵は開けといたんだ。俺が目覚めた時にはアイツもこたつに入ってたな」
「さすが、高崎クンと拳悟の仲だね」
ちょっ、ナニそのオイシイの! ごちそうさまです!
そう心の中で言った声がだだ漏れになっていたのか、お前は本当に隠し事の出来ねえ奴だなと力なく、それでいて心底呆れているのがわかる。まあ、今更ですが。
「でも高崎クン、風邪っぴきはツラいね」
「ああ。薬局行くのもだりィ」
「うちの車で行く? 乗せてくよ」
「どうした、気が利くじゃねえか」
「いやはや、カズ共々いつもお世話になってますし」
絶対何か裏があるだろ、という疑いの眼差しも何のその。まーた俺はお前を潤す何かを無意識に提供しちまったのか、と悔いる様子もまたをかし。さすが高崎クン、ナニをしても絵になる。
だけどそんな男前にうちが抱く裏の裏。それは、男前に見る萌えシチュエーションじゃなくて、風邪っぴきが治った後のこと。媚びは売れるうちに売れ。高崎クンて意外と義理堅いですしね。
「まあ、うちと高崎クンの仲ってことで」
end.
++++
慧梨夏がとても打算的に動いているのだけど、ティッシュなどを持ち歩いてすっと取り出せるいる辺りはとても女子っぽいと思う。
高崎がこたつに入ってしまうと活動停止してしまうのは今更な話だったり。春先にはおこたを片付ける話もやってみたいね。
と言うかここのバカップルは本当に安定してバカップルと言うか、いっちーがどんな女子だと。いっちークッキーたべたい