「えっ、まだDJネームないの?」
啓子先輩に連れて来られたまま定着してしまった対策委員の会議。対策委員がどういう活動をしているのかもわからないまま、向島インターフェイス放送委員会という組織に組み込まれていく。
「まあ、今は番組もあまりやらないし急ぎでもないかなと思って」
「――とか言ってると、いざというときに慌てることになると思うけど」
「そっか。じゃあ今考えるのに付き合ってよ」
今問題になっているのは、私こと宇都宮なつみの名前のこと。どうやらIFでの活動ではDJネームと呼ばれるあだ名のようなものをみんなそれぞれ持っているみたい。
私は先に啓子先輩から説明があったように、急ぎでもないという理由でまだ正式なDJネームがもらえてない。初めて会議に来たときの自己紹介でその存在を知ったくらい。
でもDJネームがないのは何て呼べばいいかわからないしさすがにかわいそうだと議長の野坂先輩が私のDJネームを考えるのに時間を割いてくれることになった。ちょっと申し訳ない。
「普段は何て呼ばれてんの? あだ名とか」
「名前がなつみなのでなっちって呼ばれてます、サークルではなっちゃんですけど」
「ああ、“なっち”はまずい」
「えっ…?」
「でしょ、だからウチでも保留してたの」
野坂先輩と啓子先輩の顔が急に深刻になって、私の名前がとんでもないことを引き起こしたんじゃないかと気が気じゃない。
そして、これを受けて「なつみ」にかすらない名前には出来ないものかと会議の方向性が決まる。
「あの、啓子先輩野坂先輩。何か、ダメでした?」
「ウチの3年生に“なっち”さんがいらっしゃるんだ。4年生ならともかく3年生とカブるのはよろしくないなと」
「野坂、なっちゃん夏合宿後にサークル入ってるから多分菜月先輩のことも知らない」
「ナ、ナンダッテー!?」
「ひいっ! スイマセン〜…!」
ナツキ先輩を知らない人がいたのか、と野坂先輩がとても驚いている様子にはただただ謝るしか出来ない。でも1年生の様子を見ててもそのなっちさんが有名なんだろうなというのはわかる。
そんな人の名前を私なんかがいただいてしまうのはさすがに問題になっても仕方がない。と言うか私もそんな名前を背負える自信がない。名前にかすらない名前でお願いしますと強く押した。
「でも、名前にかすらないDJネームっていうのも難しいな」
「野坂、アンタのは? マーシーって」
「俺のは雅史の誤読が由来だからかすってないこともない」
「あの、スミマセン、私のために……」
「最初にちゃんとつけてあげなかったアタシと直が悪いんだから気にしなさんな」
うーんうーんとみんなで名前にかすらない名前を捻り出そうとしてくれる。対策委員の皆さんは先輩も1年生もみんないい人だし、優しいなあと実感しつつあった。
「あ、はい啓子さん」
「はい野坂」
「“わかば”は? 名前にかすってないはず」
「ああ、初心者マーク的な意味で?」
「それもあるけど、IFのことをまだあまり知らないってことは伸びしろも大きいってことじゃん。IFの新風と言うか、期待を込めて。まあ、本人が良ければだけど」
「どう? なっちゃん」
「いいと思います…! かわいいですし……」
こうして私のDJネームが“わかば”に決まったところで、気になることがひとつ。きっとそれは、野坂先輩に聞くのが一番いいと思う。
「あの、野坂先輩」
「ん?」
「その、3年生の“なっち”さんて、どんな方なんですか?」
「えっ」
「あーなっちゃん、野坂にそれを聞くと長くなるよ」
end.
++++
先日からちょいちょい書いていた青女1年生のなっちゃんのお話。彼女にはこれから秋冬キャラとして頑張ってもらうよ!(もう終わるというのは言ってはいけない)
なっちゃんのDJネームはどうやら対策委員の会議の現場で決まったらしい。でも普段はみんななっちゃんて呼ぶんだけどね!
実際DJネームカブりというのはちょいちょいある話で、4年生ならともかく3年生とカブるのはマズい、というのもよく言われたこと。