「いくらコースにするのがいいのかな。やっぱ3500円以上だよね」
「だな。去年もあんま安っぽすぎなかったと思うし」
「――となると現役の参加費は4000円くらいでオッケ?」
「こればっかりは仕方ない」
MBCCのサークル室では、役職を持ってる2年生が書記の記録と会計の記録を広げて大会議。この時期の会議と言えば、4年生卒コンのあれこれ。
4年生卒コンというのはその名の通り、卒業式の日にやる飲み会。これが地味に財布に大打撃を与えてくる。追いコン同様4年生分の費用は1〜3年生が少しずつ負担することになってるから。
それだけお世話になったんだからいいじゃないかと思うかもしれないけど、ネックは4年生卒コンだけに飲み放題コースも普段よりグレードアップするMBCC流ですよ。
「果林、L、ちょい待ち」
「どしたのゴティ」
「去年の議事録には4500円コースって書いてる」
「ええ〜?」
「ちょっと去年の幹事何考えてんの!」
ゴティが出してきた去年の記録には確かに4500円コースと書かれていて、アタシもLもがっくり来てる。いや、まあ、わかりますよどうせなら盛大にやりたいって。
「でも俺らはそんな出した覚えないよな」
「ノートを見る限りでは2・3年の負担多めだったみたいだね」
「で、今年はどうする」
追い出すに値する4年生は4人とか5人とか。去年と同じ方式で2・3年生の負担を少し増やすにしても、頭を抱えたくなるような額になりそうな予感。1年生にしても4500円はイタいよね。
得てして追いコン・卒コンは高くつくものなのだ。そう納得するしかない。お世話になった先輩に気持ちよく出ていってもらうため……とは言ってもさすがに高いってば!
「じゃあちょっと聞いてみるわ」
思い立ったときのゴティは誰よりも行動が早い。その声に「えっ」と振り向いたらもう足を踏み出していることが多い。今ももう携帯を耳に当て、きっとその奥ではプルルルル、と音が回っている。
「あ、先輩おはようございますー」
「五島、誰に電話してんだろうな」
「順当に先代会計、じゃなくて会計代理のいっちー先輩じゃない?」
「今サークル室で卒コンの件についてLと果林と会議してんすけどー、あっ、はいそーなんすよ、去年はどーしてたんすか?」
するとゴティがLに空いている方の手で立てと指示する。電話の向こうでは何が起こってるんだろう。ずっと上の方にあるLの顔を見上げると、次に何が起こるのかそわそわする。
「機材棚の、一番上の段の隅っこの」
多分これはLに対する指示。ゴティが声に出すその場所の大捜索が始まった。181センチあるLでもさすがに視点が上にある方がいいのか、イスの上の作業だ。
「カゴの中にある、トランク風の箱」
「五島、これか?」
「L、開けてみ」
地上に降りたLがパリ風の印刷がされた箱の鍵を開けてみると、中には決して少なくはない現金。お金と一緒に中に入っていた紙には大学祭会計収支報告書(改)とある。
「え、まさか積み立てすか? さっすが〜、えっ、来年? 来年のことは高木とかエージに言ってもらいたいっす。はーい、あざっしたー」
「五島、5万あるぞ」
「マジで!」
「てかゴティ誰と電話してたの?」
「高崎先輩」
何でも、学祭で多大な利益を得た今期のMBCC、学祭打ち上げでそのお金を使い切るのはもったいないということで、高ピー先輩といっちー先輩がある程度積み立てといてくれたらしい。
どうしてそんな高いところに隠したのかと言うと、「イスを使っても届かないような場所に隠すのが一番いい」と。つまりお世辞にも高くはないMBCCの平均身長を利用したようだ。
「でも、これは全部使わずに来年度にちょっと取っとくか」
「そだね、全部使わなくてもイケそうだし」
「そんじゃーL、果林。25000円ここから拝借して、便宜上2・3年からは5000円回収して余った分を積み立てる、でオッケ?」
「いいでーす」
追いコンは高くつくもの。そこに備えて年間を通じたやりくりを。
end.
++++
2年生にサークルの実権が移ったとは言え、まだまだ3年生がこの部屋を牛耳っていた雰囲気が残ります。
得てして4年生を追い出す飲み会はお金がかかる物ですが、自分もそうやって追い出してもらうための投資だと思えば……無理がある?
そしてMBCCがちっちゃいものクラブみたいになってるけどLひとりじゃ平均身長もそこまで上がらないだろうなあ、元々緑ヶ丘はIFでもちっちゃい方なのに。