「それじゃ、始めよっか」
星港市某所カフェ2階禁煙席。そこに陣取り始めるのは、向島インターフェイス放送委員会の中にある組織、技術向上対策委員会の会議。定例会とは違い集まるのは2年生ばかり。
この対策委員のトップは議長の野坂――なんだけど、この野坂が救いのない遅刻魔で、待ってても埒が開かない。そこで委員長のアタシ、千葉果林が代わりに会議を進めて早3回目。
対策委員の仕事はその名の通り、放送の技術向上に関するイベントを企画運営すること。2年前まではスキー場DJに向けた活動がメインだったけど、それがなくなった今では他校との交流に力を注いでいる。
対策委員としての最初のイベントは、初心者講習会。これは主に1年生を対象にした物で、放送、特にラジオの基礎について共有しておこうという会。基本、他校の人と初めて会う場でもある。
「しかし議長は遅いねえ」
「菜月先輩から聞いてたけど、これは本当に酷い」
とは言え、全員揃わないのに大事な話をしていてもいいものかという部分の躊躇いはまだある。しかも、いないのが議長。野坂と同じ向島の佐久間ヒロは、ノサカなんか待ってもムダやよと無関心を決め込む。
そもそも今は平日の夕方で、野坂とヒロは同じ大学で、同じ学部学科で履修している授業も似たり寄ったりらしいのに、どうして片方が遅れるのかというところに話が及べば、ヒロは知らんよの一点張り。
ヒロが言うところによれば、野坂は電車に乗るとまず眠ってしまうらしい。立っていれば大丈夫らしいけど、座ってしまうと落ちるのは早い。そして携帯も電池切れのことが多く当てにならないと。
「ホントノサカはそーゆートコ致命的やと思うんやよ」
「でも、ヒロが野坂の首に縄つけてでも引っ張ってこないのもどうかと思うよ」
「ちゃうんやよ果林、ボクはノサカに早く行こうよって言っとるんやよ? やけどノサカは時間まだ大丈夫やから課題やってくとか言ってこうなっとるんやよ」
「真面目なのはいいんだけどね」
「ボクはノサカと一緒に来たいんやけど、ノサカと一緒におったらボクまで課題やらなアカンくなるし、それなんにノサカケチやから課題教えてくれんし、ボクが自力で課題始めたらノサカの3倍は時間かかるから泣く泣くノサ
カを見捨てて来とるんやよ。ノサカを見捨てとるんはボクの英断やよ。ノサカはホンマ自分がどんだけ一人で電車に乗ったらアカン体質なんかわかっとらんのやよ。電車で寝て授業で寝んとか意味わからん」
ヒロのこの言い分には、まだこのメンバーになって日の浅い対策メンバーも、向島は両極端だなあと心がひとつになった。これから1年、向島の2人がいれば飽きないだろうなあと不安混じりの空笑いを。
その真面目さと、その場にいようがいまいが場の中心になる不思議な存在感が、野坂が議長になった理由なのかなと少し思った。まあ、委員長的にはいてもらわなきゃ困るんですけど!
「てかノサカの話ばっかやん、初心者講習会の話しよ」
「――はっ、そうだ」
「ノサカおらんけど、ボクも向島やし話進めて大丈夫やない?」
きっとこれからもちゃんとした話の前には議長の遅刻対策委員会になりそうな気がするけど、議長を犠牲に他のメンバーがまとまると思えば。いや、時間通りに来てもらわないと困るんですけど!
end.
++++
対策委員会の紹介回……のつもりが、ノサカがどんだけアレなのかっていう回になってしまったので実質ヒロの紹介回。
おカタいノサカとゆるゆるのヒロの絶妙なコンビネーションは対策委員会に不安の渦を巻き起こす! ってダメですね
まあ、なんやかんやインターフェイスの2年生は向島が中心だから……不安で仕方ないね! 尻に敷かれまくりだし。