「……なーンだこの選曲は」
「見る限り、少なからずワールドカップに関係してる曲っすね」
昼放送の反省や選曲を書き記すアナノート、そしてミキノート。それを開けば思わず絶句する。ミキシング自体はいつも通りのそれだが、選曲が明らかに浮かれていやがる火曜日のミキサーだ。
「L、アナノート取ってくんねえか」
「はい」
「えーっと、火曜火曜……トークは全くワールドカップに関係してねえんだな」
「カズ先輩の暴走すかね」
「果林が上手くやってる可能性もあるにはあるけど、同録を聞いてねえから現時点では何とも言えねえな」
パタリとノートを閉じて、この調子だとその祭典が終わるまではそんな調子になりそうな火曜日のミキサーを憂う。トークが純粋にそうなのか、それともトークがそれをそれとなくかわしているのか。
番組の中で使う曲は、場所やトーク内容を考えて選ぶことが多い。タイトルや歌詞からトーク内容にスライドさせたり。だけど、タイアップ物はそれが少し難しくなる。そのイメージがあるからだ。
火曜日のミキサーである伊東が持ってきていたのはまさにサッカーの印象が強い曲ばかり。サッカーフリークだけにワールドカップイヤーで浮かれるのはわかるがやりすぎだ。
「おはよー」
「あ、ユノ先輩おざっす」
「うーす。あっ岡崎、お前火曜っつーか昨日の番組聞いてたか?」
「昨日? 聞いてたけどどうした?」
ふらりとやってきた岡崎に尋ねるのは、番組の真相。この岡崎は、明る過ぎなくて落ち着くという理由で飯を第1学食で食ってるらしい。というワケで、聞ける日は番組を聞いててくれと言ってある。
火曜日は上手くスピーカー下を確保出来たから番組を聞きながらのんびりと飯を食っていたらしいが、どうやら岡崎が言うにはこの日のトーク内容、サッカーにはこれっぽっちもかすっちゃいなかったらしい。
「この日のトークは熱中症の話がメインだったかな、確か」
「伊東の中でどういう式が立てられてそういうことになってんだ」
「うーん……熱中症、暑い、屋外での運動、サッカー! みたいなことじゃない?」
「カズ先輩なら十分あり得ますね」
「ま、カズだってさすがにこれ以上にはならないでしょ。そうカリカリしなくても、高崎」
「アイツの場合はMBCCの機材部長で、初心者講習会のミキサー講師だったっつーところが問題なんだ。あの野郎、多分BGMや曲の選び方の項目で言うはずのこととやってることが全然一致してねえだろうがっつー話な」
岡崎が俺を宥めたところで何ら心境に変化はなく。伊東の野郎を追求しなければ気が済まない。いや、とっちめたいとかではなく、その選曲に至った経緯だ。君の選曲は素晴らしい、とは言うがその背景を聞かなければ。
「でも岡崎、お前もアナならわかるだろ。一見何も関係ないような曲を持ってこられた時のイントロ乗せのムチャ振り感」
「まあね。でもその件でカズを擁護出来るとするなら、知ってる曲だからイントロ乗せは比較的やりやすい」
「なるほど、そういう考え方もあるか」
「カズへの尋問は来週もこんな調子だったらでいいんじゃない?」
「まあ、そうしとくか」
そう落ち着こうとした瞬間だ。アナノートをじっくり読んでいたLが、俺たちを呼び留める。そこにあった文言だ。
「6月2週から4週にわたってMBCCワールドカップ特番!?」
「ありゃ、火曜日は本格的にそっち攻めで来るのか。どーする高崎、俺らがそれに触れにくくなるなあ」
「つーか絶対伊東発信だろあの野郎、やるなとは言わねえが釘は刺すからな。岡崎、止めるなよ」
「俺はもう何も」
end.
++++
MBCC3年生アナウンサー・ユノ先輩こと岡崎由乃(おかざきよしの)クンが初登場。先日の話のモブ的な名前からの派生。この先どういう感じになるのやら。
そして火曜日の番組はミキサーさんが明らかに浮かれていたらしい。アナさんもスポーツイベント大好きだから抵抗はさほどなかったらしいけれど、アナ部長の眉間にはシワが寄るよ!
そう、君の選曲は素晴らしい、だけれど昼放送の場合にはある程度、限度という物があってだなあれやこれや