「あっ、タカちゃんおはよー!」
「あ、果林先輩おはようございます」
第1食堂2階の食品購買で見かけたタカちゃんの手には、パックのお好み焼き。100円という値段の割に厚くておいしい、学生の味方。せっかくだし一緒にと誘うと案外簡単に釣れる。
「果林先輩は何を」
「アタシこないだから無性にロールケーキが食べたくてさ」
「ロールケーキですか? コンビニとかでも売ってますけど」
「コンビニのロールケーキじゃ小さいじゃん」
「普通の人にはあれくらいがちょうどですけどね」
「だからね、アタシのお目当ては……これです!」
この食品購買には甘い物も置かれている。シュークリームにエクレア、もちろんゼリーやヨーグルトなんかも豊富。コンビニと言うよりは簡単なスーパーくらいの品揃え。
手に取ったのは、生菓子のところにあるロールケーキの筒。その横にはそれを切り分けて出来る1食分の個包装。もちろんアタシはこの筒を1人で全部食べる。
「大きいですね」
「10本分だからね」
「あ、でも小さいのを10個買うより安いんですね」
「アタシの消費行動はエコに貢献してるよね」
「食べる量は全然エコじゃない気がしますけど」
「何で、余計なゴミ出さないしご飯残さないよ?」
「まあ、それはそうなんですけどね」
タカちゃんもアタシにつられたのか小さなロールケーキをひとつ手に取った。それと午後ティーストレートで500円にもならない買い物。アタシもC.C.Lemonとたこ焼きのパックを手にとって、1500円ほど。
隣合うパスタとカレーのお店用に用意されているフォークを拝借して、ちょっとしたブレイクタイム。隣でタカちゃんが立てるソースの香りがたまんない。お好み焼きも買えばよかった。
「でも、どうしてロールケーキを食べたくなったんですか?」
「こないだコンビニ入ったらロールケーキの日って書いててさ」
「ああ、それで」
「その日はふーんってスルーしたんだけど、後から無性に食べたくなって。でもなかなかいい大きさのがなくってさ」
「で、現在に至ったわけですね」
スッとケーキに切り目を入れて、パタリと倒してもう1回。半分にしたそれをフォークで口に運べば、スポンジのふわふわとクリームのふわふわ、感触の違う2つの甘いふわふわが幸せに変わる。
「ん〜、美味しい!」
「俺もロールケーキを買って正解でした」
「えっ?」
「果林先輩が食べてるのを見ると、やたら美味しそうに見えて俺も食べたくなるんですよね」
「タカちゃんは絶対もっと食べた方がいいよ」
タカちゃんのパックの上に、たこ焼きを1個転がした。そしてアタシはケーキを切り分ける。甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱいの繰り返し。口の中に押し寄せる波が楽しい。
お好み焼きとたこ焼きを食べ終わったタカちゃんはロールケーキの個包装を開き、そのままのお箸でケーキを切り分けている。その顔に間違いはない。納得している。
「美味しいです。たまには贅沢もいいですね」
「えっ、ロールケーキが贅沢なの?」
「いえ、主食とデザートをちゃんと揃えることがですね。甘い物を食べたい時は、主食を抜きます」
「どうして」
「財政的な事情ですかね」
見かねて薄く切ったロールケーキをタカちゃんのそれに乗せた。何だろう、悲惨? 悲壮? 何かこう、もっとちゃんと食べてって思っちゃう。彼は不思議そうな顔をするけれど、食べることは生命維持活動だからね。
「バイト始めなよ、端でも星港市内なら腐るほどあるだろうし」
「やろうとは思ってるんですけどね」
「あ、これ何だかんだ言ってやらないループに既にハマってるよ」
end.
++++
ロールケーキを食べるタカちゃんと果林のお話なのだけど、やっぱりタカちゃんが例によって悲惨なことになってるっていうね。
そうだよね、主食(お好み焼き)とデザート(ロールケーキ)を揃えた食卓ってタカちゃんには贅沢ですよねwww
完全に果林がタカちゃんを哀れんでるよね。確かに食べることは生命維持なのだけど、果林とタカちゃんの規模の違いね。タカちゃんのが逼迫してそう。