「おざーっす! よう高木」
「あ、エイジおはよう」
ごくごく普通に挨拶をしているように見えるこの光景に目を細めるのは伊東。ちょっと前までは見ることの叶わなかったそれだけど、初めてっつーワケでもないのに何遍見ても感動してやがる。
そもそもMBCCの扉を叩くのはどこか変わった奴が多いのだ。全員と仲良く出来るだなんて思わない方がいい。この高木とエージにしてもちょっと前までは同じ空間にいようが互いの存在を消してたくらいだ。
それがどうした。サークル室でも確定しつつある1年生の席だけど、隣合って座るまでになっている。伊東が心配しすぎてたんじゃねえのかって俺は最初から思ってたけど、喜びはひとしおらしく。
「うんうん、エージもおはよー」
「カズ先輩おざっす!」
普段からニコニコしてMBCCの母だなんて呼ばれてる伊東が、ニコニコを通り越してニヤニヤしているように見えて正直気色わりィ。これは何だ、アレか。宮ちゃんのアレが伝染したとかそういうのか。
「うんうん、1年生はかわいいね」
「お前、完全に保護者の目だぞ」
「タカシとエージも気付けばツーカーだし、やっぱりきっかけなんだろうなあ」
高木とエージがギターをきっかけに急接近してからは早かった。エージが高木の部屋に遊びに行くようになり、部屋で酒を飲んだら高木がそこそこ(っつーかかなり)飲める奴でエージが感動したとか。
高木も高木で、エージが一人暮らしの部屋に遊びに行くときは何かしら差し入れをしてくれることに感動したとか。そんな小さな感動を積み重ね、「コイツ、そんなに悪い奴じゃねえな」と理解は深まる。
「エージ、同い年で自分より飲める子初めてだったみたいよ」
「高木がか」
「うん。タカシはビール飲めないけど、ウィスキーをあれだけ飲めたらねえ」
「まあ、ビール抜きなら俺より強いもんな高木は。つーか酒で意気投合する辺りがMBCCだな」
「あとは高ピーと育ちゃんが仲直りすれば完璧なんだけどなー」
――とまあ、無茶なことを言ってくれる。そんなこと、天地がひっくり返ってもあるはずがねえ。と言うか願い下げだ。出来ればどこの国とも知れない場所でくたばってくれと思っているくらいなのに。
俺と武藤に関しては、高木とエージのそれよりも根が深い。今更ちょっとやそっと何かアクションを起こしたところでどうにかなるとも思わないし、したくもねえ。
「高木、今度またお前んち行くべ」
「うん、わかったよ。来るときはなるべく前もって言っといてくれれば助かるよ」
「つかお前こないだコロッケに超感動してたけど、そんな感動するようなモンか? フツーに3個100円のヤツだっていう」
「なかなかお総菜も買わないし、揚げ物はあまり食べないからね」
「お前揚げ物嫌いなのか?」
「ううん、好きだよ。でも揚げ物って嗜好品じゃん」
「酒の方がよっぽど嗜好品だろっていう……ブラックニッカストレートで飲むとか俺には出来んべ」
「割と普通じゃないかなあ」
確かに、こうやって見ていると1年生はどこか牧歌的に見えるし、それまでの不仲を2年だの3年だのに持ち越さなくて良かったとは思う。伊東は相変わらず保護者の目だ。
俺と武藤のことに関しては今更誰が迷惑するでもないし、それが双方の意志なのだからそれを尊重しろと。和を愛するがあまり板挟みにされがちな誰かさんは、その苦労すら快感なのだろうか。
end.
++++
今年は仲良くなる前のタカエイのお話もちょいちょいやっていたのですが、ここからは仲良しのタカエイに入って行くようなそんな感じ。
この時点ではまだ、エイジもタカちゃんがそこまでずぼらだとは気付いてない。前もって言ってあるから部屋もきれいだし、冷蔵庫の中に野菜生活があるのも体を気にしてるんだなーという程度で。
タカエイの話なんだけど、やっぱり根が深いところがちょいちょいかかっているらしい。高崎と育ちゃんのことはユノ先輩にも語らせてみたいね。