「うーん」
「菜月先輩、どうされたのですか?」
「ああ、ノサカか。ちょっと、気になることがあって」
避暑地として利用されているという図書館で、菜月先輩はスポーツ新聞片手にうーんうーんと悩ましげな表情を浮かべる。声をかけてみたのはいいんだけど、気になることとは何だろうか。
「サッカーがさ、よくわからないんだ」
「サッカーですか? 一体サッカーの何が」
「何って、いろいろあるぞ。いつの間にかロスタイムって言わなくなったなあとかオフサイドって結局何なんだろうとかロスタイムを設けるならタイマーを止めて45分きっちりやればいいじゃないかとか倒された選手がいつまで立っても起き上がらないのは何なんだろうとかあからさまなゲーム進行を妨害するような行為にはロスタイムのロスタイムっていうのが発生するのかとかサッカーにはにわかでも自称サポーターが沸いて出てきて迷惑行為をしているのにどうして」
「あー、もう結構です、いろいろなことがわからないのですね」
これ以上聞くとサッカーフリークの方に怒られかねない。いや、すでにサッカーフリークの方にケンカを売るような文言が躍っているような気がしないでもないけどきっと純粋に疑問なんだな!
「新聞にも書いてないんだ」
「そりゃあ、新聞はルールブックではありません。と言うか、せっかく図書館なのですから、サッカーのルールブックを探してみるというのはいかがでしょう」
「ノサペディアには書いてないのか」
「残念ながらノサペディアのサッカーの項目は記述が薄く。野球であればある程度対応出来るのですが」
MMPじゃサッカー談義は期待できないな、と菜月先輩は新聞を閉じた。テレビじゃサッカーばかりで野球のニュースなんて本当に触れる程度。もうしばしの辛抱とは言え、菜月先輩は退屈されているようだ。
唯一救いがあるとすれば、向島は地元球団があるからローカル局が野球中継を比較的やってくれることだろうか。緑風なら間違いなく野球を見るために有料チャンネルとの契約が必要になるところだった、と。
「こっちに来てから、贔屓球団以外の試合でも割とよく見るようになったぞ」
「そうですか」
「下手なバラエティ番組よりも面白いじゃないか」
「確かに、それは言えますね」
「サッカーはあんまり馴染みがないんだよな、何でだろう。野球もサッカーも経験がないのに、野球の方が何となくルールが分かると言うか。サッカーは、点数の入り方とハンドと色付きのカードくらいしか」
「菜月先輩、余談ですがキックベースの経験はございますか?」
「ああ、よくやってたぞ。あと、派生のラケットベースとか。ああ、だから何となくだけど野球のルールがわかるのか」
そして菜月先輩は再びサッカーのわからないところを羅列し始めた。ボランチって何、どうやったらコーナーキックになるんだ、町中で騒ぐサポーターはリーグ戦でも同じように騒ぐのかなどと。
それに対し俺は、詳しくなければファンを名乗ってはいけないということはないと返した。ルールを知らないから見てはいけないということもない。もちろん、知っているに越したことはないのだけど。
「ですので、サッカーのルールブックを――」
「誰か手近に詳しい奴はいないのか」
「先程菜月先輩がご自分で結論を出されたと思いますが」
「そうだったな。MMPにサッカー談義は期待出来ない」
end.
++++
それがすべてを表しているお話。MMPにサッカー談義は期待出来ない。だからと言ってMBCCでやるかと言ったらやらないのだけど。
スポーツイベントに盛り上がるのは楽しいのだけど、MMPはみんな野球寄りなので話があまり膨らまないのでした。
あっ、そういやヒロってIFサッカー部……げふんげふん、あとまあ、三井サンが多趣味なのとりっちゃんの博識さで何とかならんかね!