パチパチと、キーボードを叩く音がする。プログラミング課題は佳境。もう一息で提出出来る物になる。
「ふう」
オレと美奈が課題を追い込む中、隣で浮かぶ一段落の息。恐らく、この教室の中でも一番乗りだろう。石川は、化学実験と比較すればこれを得意とする男だ。この程度の課題であれば朝飯前だろう。
石川が提出手続きを終えた頃、オレも課題を上げ、それに続くように美奈も終えた。課題を提出してしまえば教室から退出しても構わない講義だ。いつまでもこんなところにいる理由はない。
「しかし、お前は本当にプログラムになると水を得た魚のようになるな」
「その言葉、プログラムを実験に変えて返してやる」
2限の途中ということもあり食堂はとても空いている。せっかくだから昼食にしてしまおうと、各々のトレイに乗る食事。サラダバーの前には美奈。どんなバランスでサラダを食おうか考えているようだ。
「システムという物を考えていると、楽しいんだ」
「ほう。将来はSE志望か?」
「どうだろう。俺が言っているのはシステムの構築の話じゃなくて、システムとは何ぞやということだ」
サラダを盛ってきた美奈が席に着けば、食事が始まる。いただきますと手を合わせることで一旦は切れたが、気になるのは石川のシステム論だ。続きを促す。
「システムというのはプログラムのことだと思いがちだけど、実際は仕組みだ。それこそ食堂でトレイを取ってからの一連の流れもシステムだろ?」
「ああ、そうだな」
「効率化のためとか、どうすれば楽が出来るかという部分がシステム構築の根っこにはあると思うんだけど、最初には効率化のための労を払わなきゃいけないと思ってる」
この話には美奈も関心があるようで、サラダを食べながら無言で聞いている。石川風に言えば星大の学食の特徴とも言えるこのサラダバーもシステムのひとつだろう。
「ただ、プログラムはマシンで構築するけど、所詮は人の作るもの故に欠陥は生じる」
「バグなどいくらでも」
「今言ってるのはバグじゃなくて、抜け道や盲点の話だ。それに、機械は絶対に正しいと思いこむタイプの奴もいる。手作業の方が早いのに、使えもしないマシンと格闘する連中もザラだろう?」
「情報センターにもとんでもない連中が来ることはあるがな」
「年賀状を書くときが、典型……かもしれない……」
「美奈の例えが的確だな。誰かの払った効率化のための労をlawにして、身動きが取れなくなる奴もいるだろうなと思うと滑稽で」
既存のシステムに対しても、どうすればより良くなるか。それを考えるのが楽しくて仕方ないと石川は口角を釣り上げる。思い描いた物を実装するのに要する知識と技術をつけるのに余念がないということだろうか。
「自分の作った物が「あると便利」から「ないと不便」になれば、それは俺の払った労も報われる」
「徹……そうやって、世の中を仕組みの方から支配しようと――」
「美奈、だからこないだから人聞きが悪い」
「日頃の行いだと言われただろう」
「日頃の行いのことをリンには言われたくないな」
end.
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今期の、と言うか最近の石川は野心に満ちたキャラ付けがされているような気がするよ! ブラック石川タノシー!(書いてから1ヶ月以上経ってしまった)
システムとは何ぞや、ということを語らせるにはやっぱり彼ら、星大組か百歩譲ってノサカなど向島理系組かなと思いました。
世の中を仕組みの方から支配しようとする、と石川を語る美奈の目には果たしてどのように彼が写っているのだろうか……あるいは幼馴染み故の悪ノリ…?(笑)