変わった人からメールが来たなあと思えば、それは高校の先輩から。その人とは部活が同じだったとは言え、厳密には男子部と女子部の壁がある。その人がどうして今、うちにメールをしてきたのか。
指定された場所に向かうと、そこには懐かしい光景が広がっていた。バッシュを履いてやる気満々の広瀬先輩。大学ではバスケから遠ざかっていた先輩だけど、ブランクはあまりなさそうな、そんな雰囲気。
「あっ、広瀬先輩お久し振りですー」
「おー、宮ちゃん来たかー」
「今日ってうちらだけですか?」
「いや、そもそもが俺発信じゃないから何人来るかもわかんねーんだこれが。あっ、伊東の姉ちゃんにも声はかけたけど」
「美弥子サンも来るんですか?」
「ちょっと遅れるけど来るとは言ってた」
まさか広瀬先輩発信じゃなかっただなんて。まあ確かにバスケやるならもう少し人数がいた方が楽しくなるっちゃ楽しくなるよね。それにしても誰発信の企画なんだろ。
「広瀬せんぱーいっ! だああっ!」
「コラ拳悟お前ただでさえデカいんだから飛びつくな!」
「先輩超久し振りっす〜!」
180センチを超える広瀬先輩よりも、もう少し大きなバカワンコがしっぽを振り振り飛びついている。ああ、こんな光景も懐かしい。間違いない、今回の企画は拳悟発信か。
「宮ちゃんも久し振り!」
「うちには見向きもしなかったクセに〜」
「同級生と先輩なら先輩優先です」
川崎拳悟。うちと同級生で、星港高校男子バスケ部のエースフォワードを張っていた男子。部活では同じフォワードだった広瀬先輩にこれでもかと懐いていた。それこそ主人と犬みたいに。
今は美容師として社会人デビューをしたらしい。今日は月曜日で、拳悟のお店もお休み。メンバーと曜日を考えて、この大型犬の顔が最初に浮かばなかったのはうちも鈍ったなあ。
「広瀬先輩何人に声かけてくれました?」
「とりあえず宮ちゃんと伊東の姉ちゃん」
「おおっ、カズの姉ちゃんとか! 姉ちゃん超上手いんすよね! てかカズ本人は来ないんすかね?」
「どうだか。そもそも今日はMBCCの活動日だし」
「フットサルならともかく、バスケでカズが来るワケないない」
「ちぇー、浅浦ごと拉致すれば可能性はあるかなあ」
「浅浦クンはカズよりもっと出不精だから、美弥子サンに賭けるしかないね」
拳悟と遊ぶときは最初からメンバーを固定するんじゃなくて、成り行きに任せていくことが多い。誰がヒマそうだ、じゃあ声かけよう。他に友達いたら連れてきなよー、とかそんな。
友達の友達はみんな友達。そういうのを地で行くのが拳悟のスタイル。今回にしても、知ってる知らない関係なく声かけりゃいいじゃん、と。それで上手く行くのが拳悟の人柄なんだろうけど、すごいねえ。
「本題は広瀬先輩との1on1だったけど、カズの姉ちゃんとも勝負してみたいし宮ちゃんともフリースロー対決の続きやりたいし、時間足りなくなりそうだなあ」
「毎回うちの圧勝なのにまだ挑む? ハンデつけたげよっか」
「いらない!」
すると広瀬先輩のケータイが震えるのだ。ひょっとすると、新たな参戦者のお知らせかもしれない。これにわかりやすくしっぽを振る拳悟と言ったら。手袋を外しながらもそわそわが止まらない。
「おっ、伊東の姉ちゃん、サークルの奴何人か連れてくるってよ」
「よしきたあっ! カズの姉ちゃんばんざーい!」
「美弥子サンばんざーい!」
「広瀬先輩、ついでなんでカズの姉ちゃんにカズと浅浦も拉致ってもらえるか聞いてもらえません?」
end.
++++
拳悟の話をしてたら久し振りにやりたくなった。リン様との絡みで考えてたのにどうしてこうなった
高校のバスケ部繋がりのこの3人。特別仲が良かったというか拳悟が広瀬に一方的に懐いていたというか……慧梨夏は拳悟と仲良し。
そう言えば月曜日がMBCCの活動日だったなあというのを上げる直前に思い出した。でもメンツ的に夜になっても余裕でやってそうだ! いち氏は果たしてどうなるのか! 仮眠の時間は取れるのか!