「え、カビ取り? 風呂の?」
「えっと、お恥ずかしながらサークル室、だね」
定例会後、直から相談があると誘われた飯屋で切り出された話は、確かにあまり大っぴろげに出来るような話でもなさそうだった。
一見華やかで小綺麗にしてそうなイメージのある女子大のサークル室が、カビが生え、ゴミが散乱し、ゴキブリの走る空間だなんて思いたくはない。
「Lってキレイ好きだし、カビ取りの仕方も知ってるかなと」
「まあ、簡単になら。でも青女のサークル室ってそんなアレなんか」
「他校の人は間違っても上げることは出来ない空間だね。去年は菜月先輩を上げたそうだけど、去年のサークル室も綺麗だった覚えはないから、あの空間に人を上げたなんてボクは信じられないよ」
女子大に夢を見てはいけないということを、サークル室の様子を思い出して震える直から学んだところでカビ取りの話に入っていく。とは言え俺にある知識はそんなに大層な物ではない。
そもそも、俺は生えてしまったカビをやっつけると言うよりは生やさない努力をする方だ。だけど直が今求めているのはガンコなヤツを根絶やしにしたいという季節の相談。
それも、カビ取りと言えば大体が風呂場の話だけど、今はサークル室の話。俺の持っている風呂場のカビ対策と同じにしていいのか悩むところがある。
「まあ、隅っことか溝とかガンコなところは、カビ取りの液をティッシュで作ったこよりに浸してつけ置きすることで多少は」
「ふむふむ」
「あと、さすがに大丈夫だと思うけど天井な」
「あ、壁の上の方も少しやられてるんだ」
「マジか。えっと、フローリングの掃除をするワイパーの本体を用意して、そこにカビ取りの液をつけた雑巾とかをセットしてやって。直はそこそこ身長あるからそれで大体届くと思う。でも基本は風通しな」
「ありがとうL、大学に帰ったらやってみるよ」
直は俺の話したカビ対策をルーズリーフに一生懸命メモして、ありがとうありがとうとまるで命を助けたみたいにお礼をしてくれるけど、青女のサークル室はどんな悲惨な状況なんだ…!
確かに定例会の最中にお菓子を食べてるヒビキ先輩の様子から見てると全く想像出来なくもないけど、女子ばっかなんだし誰か一人くらいキレイ好きの子がいたっていいだろ。
だけど直が言うには植物園イベントが終わってからも、適当に突っ込んだ道具類が整頓されることなく今でも散乱しているとか。いい棚を買わなきゃという話はしているらしいけど。
「あのな、直。片付け下手な奴に限って要らない収納用品や棚を買って部屋が余計ごちゃごちゃするんだぞ」
「えっ、そうなのか…!」
「ごちゃごちゃすると死角も増えて日々の掃除がしにくくなるし、カビやゴキブリの隠れ場所になる。棚を買うことは悪いことじゃないけど、まず要らない物を捨てるのが基本な」
「なるほど」
「――って、それはメモするほどのことでもないと思うけど」
「ううん、この話はありがたく青女に持ち帰らせてもらうよ」
そうか、直は汚いサークル室に危機感を抱いてるようだけど、掃除自体は上手くないのかもしれない。だけど危機感を抱いているだけマシだと思えてしまう青女事情、一体どうなってるんだ…!? いや、詮索なんかしたら死ぬな。
end.
++++
去年はゴキブリ対策でしたが今年はカビ対策。去年からあっためていた浅田教授の特別講義です。
青女のサークル室はとんでもないことになっているというのだけは確からしいのだけど、やっぱり誰か1人くらいは……うん、まあ……
MBCC・MMPは大体わかるけど星大のサークル室とか星ヶ丘ってどんな感じなんだろうか。