「そろそろやりたいですね、アレ」
「もうそんな時期だっけ」
GREENsの活動中、慧梨夏サンと伊東サンの義姉妹が何かを企み始めたら要注意だ。このバスケサークルに入って3ヶ月が過ぎた。今ではそれなりに馴染むことも出来ていると思う。
これもひとえにこの義姉妹から好意的な絡まれ方をしているからだと2年男子の尚サンは言ってくれるけど、好意的な絡まれ方って何だ。ただ、この義姉妹を敵に回すととんでもないことになるは確かだ。
「それにほら美弥子サン、今年はいいのが入ったじゃないですか」
「ホントだね、期待出来そうだね!」
そして突き刺さる視線には、季節を忘れさせるほどの悪寒。一瞬で鳥肌が腕全体に広がる。これは嫌な予感しかしない。俺はどんな悪巧みに付き合わされるのだと。
「鵠っちー!」
「何すか」
「鵠っち、腕っ節に自信は?」
「普通くらいじゃないすかね」
「それじゃあ鵠ちゃん、スタミナに自信は?」
「まあ、普通くらいじゃないすかね」
腕っ節に、スタミナ。それくらいならそこそこ自信はある。だけど、おおっぴらにそう言ってしまうと何が降り懸かってくるかわかったモンじゃないじゃん?
俺が「普通」だと自己申告しているにも関わらず、この義姉妹は少なくとも自分たちよりは腕っ節も強いしスタミナもあるだろうと完結させてしまうのだ。そりゃ、女と比べりゃそうなるだろうな。
「で、慧梨夏サンは今度何を企んでるんすか」
「企むだなんて人聞きが悪いなあ」
「まあ、本題を伏せたまま人に探りを入れるような行動を取ってるのが怪しいじゃん?」
「かき氷大会だよ、夏のGREENs定番イベントだからね」
本当に、たったそれだけのことであんな大袈裟な探り方をしていたのかと思うと、この人の考えていることはよくわからない。それならそうと言った上で聞いてくれればよかったのに。
結局、腕っ節がどうこうとかスタミナがどうというのは手動式のかき氷器のハンドルを回す時のことを考えて聞かれていたらしい。確かにあれは地味に疲れる。
「電動のかき氷器があればいいんだろうけどね、それでも手動でハンドルをキュルキュル回した方がサークルの大会としては風情があると思わない?」
「まあ、慧梨夏サンの主張もわからないことはないっすね」
慧梨夏サンが言うことによれば、最近はかき氷が流行ってるしかき氷界に一石を投じる斬新な、革命的なかき氷をGREENsから生み出せるかもしれない、と。
「慧梨夏ちゃんがそれをやると死人が出るからダメ」
「ホットケーキの生地凍らせて削ったのにハチミツかけようと思ったんですけど、ダメですか〜」
「……慧梨夏サン、食える範囲内でお願いします」
至極本気でホットケーキ氷を作ろうとしていたと言うのだから、慧梨夏サンの料理センスは壊滅的なのかもしれない。伊東サンが止めてくれて本当に良かった。
おまけに、お前はカンナがけが出来るのかとも聞かれる始末。出来たとして、カンナはどこにあるんだ。そして、それで何をさせる気だ。ひょっとしなくても……そうじゃん?
「かき氷大会の醍醐味は、冷えた体をあっためるおつゆだからね! 鵠っち鰹節を削ろう!」
「ダシから取るんすか!?」
end.
++++
とりあえず、GREENsは慧梨夏がやりたい放題暴走してるのを、姉ちゃんが煽るなり止めるなりすることで成り立っているのかもしれない。
最近流行っているドルチェ氷などの変わり種かき氷を実際に食べたことはないのですが、きっと美味しいんだろうなあ。
でも慧梨夏、いくら氷菓とは言えあまり凝ったことをやったりトッピングをつけすぎるとまたカロリーオーバーかつ体冷やしてバテるぞ!