公式学年+1年
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「時刻は12時30分を回りました。本日は社会学部メディア文化学科3年の千葉果林がお送りしています」
――なんていう声が、スピーカー越しに響き渡る。やっとやっとで買えた丼の袋を提げ、ラジオブース前のベンチに駆ける。
「高木遅いし!」
「もう始まって結構経ってんじゃん?」
「ゴメン、丼の列めちゃ並んでた」
一緒にゼミラジオを聞こうと約束をしていた鵠さんと安曇野さんに軽く叱られつつも、ようやく落ち着くことが出来る。この時期だし、人が増えるのも仕方ない。
「って言うかアンタ今日2限だけなんだから、ご飯なんてラジオ終わってからでよくない?」
「今から思えばそうなんだけどね」
「そうだな、テイクアウトだったら揚げ鶏丼の紅ショウガも抜けないけど、3限の時間にゆっくり注文すりゃおばちゃんに言って紅ショウガだって抜いてもらえたんじゃん?」
「ホントだよね。はい鵠さん紅ショウガ」
「ったく」
佐藤ゼミの活動の本丸が、ガラス張りのラジオブースから放送されるラジオの公開生放送。このブースがまた、人通りが一番多いセンタービルのど真ん中だし、スピーカーは外にもセットされている。
ゼミ生であるからには一応この番組をしっかりと見ておかなくてはならないだろうということで、3人の日程を合わせて約束をした。それがちょうど今日、金曜日の昼。今日の担当は果林先輩だ。
「やっぱ千葉ちゃんは普段からやってるだけあって聞きやすいな」
「台本作ってないとか神だし!」
2人が果林先輩を褒めちぎる中、俺は揚げ鶏丼を食べながらブースの中に目をやっていた。ミキサーは小田先輩が担当していて、ゼミのエースらしい布陣になっている。今日はとにかくエンターテイメント。
他の曜日は社会問題から学内注目アスリート、それに佐藤ゼミのもう一つの本丸とも言えるサブカルについてなどなど。やることが決まっていて、聞く層も固定されている。だけどフリーの金曜日だ。
「果林先輩の声って、聞くと元気になれるよね」
「ちょっ、鵠沼これって高木の公開告白的な?」
「お前、これ場合によっちゃ大事件じゃん?」
「違うよそういうんじゃなくて。大体安曇野さんだって声優さんのサンプルボイス聞いてはテンション上がる〜ってやってるじゃん」
「それを出すなし」
そういう意味がないならどういう意味なんだと聞かれれば、それこそ深い意味もなく、ただただそう。果林先輩の声を聞くと元気になれるという、それだけなんだけど。
「何て言うか俺の主観だけどさ。トークが上手いとか内容も大事なんだろうけど、こういう、フリーの日が逆に一番難しいんじゃないかなあって思ってさ」
「ああ、サブカルの日は何もしなくたって聞きに来るもんな」
「少なくとも、雑音にならない聞きやすさがあるし、何となく聞きたいなあって思えるような、そんな存在感と言うか」
「ああ、確かに俺も丼売りながらたま〜に今日は千葉ちゃんかってなるっちゃなる」
「やっぱり俺は、果林先輩の番組や声が好きだなあと思ってさ」
柄にもなくいろいろと語ってしまった。ベンチの前にも、ブース上部からの音が降り注ぐ。すると、ピピッという、スピーカーを通さない電子音。音の発信元では、安曇野さんが何かを構えている。
「ちょっと安曇野さんそれ課題で使うICレコーダーじゃん!」
「心配なく。音声素材にしようだなんて思ってないし」
「何を素材にするの!」
「さっきのセリフ、編集したら素敵な告白だなんて思ってないし」
「ナイス安曇野!」
「安曇野さん本当に勘弁して! 消して消して!」
そうやってブースの前でわあわあと騒いでいたのも、俺がそんなに取り乱すなんて何があったのなんて果林先輩から聞かれたのはまた別の話。
ガラス張りだから、向こうからも外が見える。番組をやりながらちゃんと外の様子を見ることが出来るのも果林先輩の技術のひとつ、ですよねー……
end.
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まあ、今くらいの時期がタカちゃんと果林を冷やかすにはちょうどいい季節なのでね……ゼミでもちょちょいとやっとこうと思ったよ!
と言うかタカちゃんが果林(の番組や声)を大好きすぎでねwww まあ、元々果林先輩の声は元気になれるとか言ってるけどさ。
いいぞあずみんもっとやれ 今回のお話はタカりんがどうとかよりも地味に鵠あずの救済回でした