公式学年+1年
++++
制服でごった返すセンタービル、そこに設置された佐藤ゼミの簡易ラジオブース。緑ヶ丘大学オープンキャンパスは現在昼休みで、体験講義を終えた学生の一団が食堂に押し寄せる波になっていた。
学食バイトの身としては、今日はシフト入ってなくて良かったとしか言えない。つーかゼミの方に来てるからバイトしようがないと言う方が正しいのかもしんねーけど。
「鵠沼、声落とせし。音拾う」
「わりい」
昼休みも休み無く佐藤ゼミのブースでは番組が流されている。とは言え3年生が担当する案内放送でも人通りの少ない時間に2年生が担当する番組でもなく、これはエンターテイメントとしてのラジオ。
ゼミの時間、ヒゲ教授直々に指名された高木がミキサーとして入っている。MCはサークルの先輩である千葉ちゃん。俺と安曇野、それと佐竹は、人通りの少ない3階の通路からビデオに記録する担当だ。
「やっぱり上手いよねえ」
「ヒゲさんの見栄に付き合わされる高木と千葉ちゃんも大変だな」
「鵠沼、今のをカメラのマイクが拾ってないことを祈っとけし」
「おっと、ホントじゃん?」
そう、これはヒゲさんの見栄だ。テンプレ通りに喋ればいい案内放送や、人の少ない時間にやる2年生のお試し番組なんかではなく。人通りの多い時間のフリートークで魅せることだ。
日頃からヒゲさんは佐藤ゼミは社会学部の……いや、緑ヶ丘大学の花形ゼミであると自称している。それだけに華やかで、見栄えがすることをアピールしなくてはならない。それが今。
「小田先輩が言ってたんだけど、高木クン、せっかくいい機材使うんだから思いっきり遊びたかったみたいね」
「あー、それこそ俺たちじゃなくて、勝手を分かっててやりたい放題できる千葉ちゃん相手だからこそか」
「アタシそーゆー暗躍嫌いじゃないけどね」
「安曇野、表現悪くね?」
「高木と千葉先輩が組んでるんだったら、よっぽど社会学的じゃなきゃMBCCの番組だし。部室が隣だからそっちのイメージも強いんだわ」
簡易ブース前には、なかなか進まない人の波が相変わらず止まっていた。流れの悪い波の中で、暇潰しとして目の前の番組を耳に入れている連中もいるのかもしれない。
「てか高木もマイクしてるし!」
「ホントだ、高木クン喋るのかな」
「千葉ちゃんに脅されてるなら、ひょっとするかもじゃん?」
インカムマイクを装着した高木が声を発する気配はない。何か喋ってくれれば俺たちの中でも祭になること間違いなしだけど。2年のエースとは言え根っからのミキサーだし、難しいか。
そう俺たちが諦めかけていたときのこと。千葉ちゃんが高木に話を振った。そして一言二言発してまた千葉ちゃんに話が戻る。それを上から眺めていた俺たちが大爆笑したのは言うまでもない。カメラが回っていることも忘れていた。
「ヤバい! 高木が番組中に喋ってるし! 超ウケるし!」
「さすが千葉先輩だわー……」
「また話振んねーかな! ヤベーなこれ、思ったより全然面白いじゃん!?」
そしてまた喋らないかどうか、大笑いしながらブースをのぞき込むとちょうど曲に入ったようだった。高木に身振り手振りでトークがウケていることを伝えようとすると、向こうもこっちを見ているようだ。
こっちを指さして何か言おうとしているらしいのはわかるけど、奴が何を伝えようとしているのかまではわからない。その一生懸命さがまた安曇野にはウケているらしい。
すると高木が何かを書いたホワイトボードを翳すんだ。それに書かれていたのは「カメラのマイク」という決定的な、それ。なんてこった。俺たちが爆笑してるのが下からもわかったってことじゃん?
「……とりあえず千葉ちゃんに謝るべきじゃん?」
「そうだね」
「間違いないし」
3人で一列に並んで、千葉ちゃんに一礼。それを見た千葉ちゃんが番組後の控え室で大笑いしていたのはまた別の話。
end.
++++
タカちゃんにも謝ってあげてください(笑)。そんな佐藤ゼミ2年3班がきゃっきゃしているオープンキャンパス回。
多分ヒゲゼミの機材はいろいろ豪勢なので、この撮影機材にしても割といい物だろうし、音もしっかり拾うんだろうなあ!
そしてこの鵠あず由香里さんが大笑いしてる映像は後々この3人をイジる素材になるんだろうね!