「この通り! 神様仏様高崎様ぁっ!」
「ちっ」
今年もこの時期がやってきたか。テストが近くなるとこうやって飯野が俺に縋り始める。テスト前になって焦るような生活をするのが悪いんであって、今更ジタバタしてどうなる。
学内には人が多くなってきて、学食で落ちついて飯を食おうにも席は取れなくなりつつある。日頃来ない連中、言ってしまえば飯野やら宮ちゃんみたいな連中が復帰してるんだろう。
とは言え青空ランチの場合は席の心配はさほどない。お飾りの池を囲う芝生の、木陰が俺たちの指定席。早めに買い込んでいた量り売りの弁当で悠々とした昼飯は、ビールがあれば最高だ。
ただ、そんなゆったりとした時間を引き裂くのが飯野の時と場所を選ばない土下座攻勢。それこそ芝生なのをいいことに、文字通りの土下座。それでもダメならうんと言うまで俺にしがみついて離れない。
「土下座で動いてやるほど俺は甘かねえぞ」
「そんなことは俺だってイヤになるほど知ってら」
「なら、するだけ無駄なこともいい加減学習しろ。俺に首を縦に振らせてえなら、土下座より効果的な方法を考えてからにするんだな」
すると飯野は、ない頭を捻って俺を動かしたいがための効果的な方法を考え始めるのだ。石頭のお前をどうやって動かしゃいいんだ、それこそ石の上にも3年か、などとワケのわからないことを言いながら。
「あっ!」
「思いついたか」
「高崎、学内の様子の変化には気付いてるか?」
「ああ。最近やたら学祭のイベントを告知する看板が立ち始めてるな。それがどうかしたか」
「そこ、学生課のトコに立ってる看板、読めるか?」
飯野が指した、並木道の入り口のところに立つ看板には「女装ミスコン開催!」の文字。それがどう俺のノートを集ることに繋がるんだ。宮ちゃんじゃあるまいし、そんな趣味が俺にあるとでも思ってんのか。
「赤文字で豪華賞品って書かれてるだろ」
「どーせ大したことねえんだろ。つか俺が出るワケでもねえのに何の関係があるんだ」
「今は賞品を伏せてるけど、お前にだから話そう。この女装ミスコン、俺が死ぬほど頑張ったおかげで提供がかなり豪華だ」
「自分で死ぬほど頑張ったとか言うなよ」
「で、商品が、某有名オーディオメーカーのカタログの中から10万以内で好きな物を注文出来るっていう」
「ちょっと待て、そのカタログっつーのはチラ見出来ねえのか」
「あるんだな、これが」
そうやって飯野がチラつかせたカタログを見るには条件があるとか。講義2回分のノートをよこせと。某有名オーディオメーカーの好きな機材10万円分となると、気にならないとは言えない。
飯野に2回分のノートコピーを約束して、カタログを受け取る。それをパラパラと見ていくと、携帯音楽プレーヤーのような物からかなり本格的なサウンドシステムの機材まで様々。
「つかこの辺のページ、MBCC的にかなりオイシイな」
「何もお前が出なくたって、MBCCの誰かが持って行けば、的な?」
「なるほど、黒幕になればいいんだな」
この商品情報が公になるのはまだまだ先のこと。それを知った上で今の段階から本腰を入れて計画を立てれば、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。
幸い、こっちにはそういうのが嫌いじゃねえ某腐女子がいる。アイツにも何か交換条件、ギブ&テイクを突き付けて協力を仰げば、こっちが求める以上にしてくれそうだ。
「飯野、情報サンキュ」
「――というワケで、ノートをもらえたりは……」
「2回分+2回分ってトコだな」
「その辺の勘定はシビアだな」
元々てめェの自業自得だ。俺は普通に授業出てんのに、サボってるヤツだけ得をするのは違わねえか? 俺にも何かいいことがあって然るべき。そうだろ?
end.
++++
ついに高崎&飯野の中でも学祭のお話が食い込み始めました。飯野は大祭実行の人だからやっぱり人よりちょっと早い。
飯野がポニーテールの天使と称する慧梨夏の格言と言うか座右の銘と言うか、とにかく何かそういうようなアレが「ギブ&テイク」なのでそれを忠実に。
やっぱり、学力どうこうじゃなくて脅し脅されで成り立つ高崎と飯野のやり取りも結構楽しい。