「あー、水〜!」
「カズ、塩分もとっとけ」
「サンキュカオル」
例によって祭の練習中、休憩になる度俺たちは大袈裟に倒れ込む。カオルはさすが、夏の屋外に慣れているだけあって塩分が補給出来る飴もばっちり持っている。もらったそれを舐め舐め回復だ。
「カオル体力ないとか絶対ウソだろ」
「いや、ホントにない。でも丸の池が終わって少し楽になった」
「てか圭斗はどーした? 姿が見えないけど」
「ふらふらと消えてった。ありゃ今日はもう無理だな」
「あっちゃー、つか圭斗最近マジやつれてるもんな」
圭斗がダウンしたという話も決して他人事じゃない。いつ自分たちがこの暑さと過密スケジュールにやられるか。お互い体には気を付けようと声を掛け合って。
そんな中、遠い方から近付く元気な声。女の人だ。休憩中にも関わらずよく暑い中歩き回っているなあと尊敬の念が浮かぶ。しかも、チラリと目をやると保冷カバンのような物を提げている。
「アイスの差し入れでーす! ――って、カオルちゃんッ! うっそー、いたんだ!」
「あっ、水鈴さん! お久し振りです!」
さっきまでは少し暑さにやられたような顔だったカオルも、しゃきっとしてペコペコと頭を下げている。知り合いだろうか。と言うか、カオルちゃんて。そう呼ばれるとキレるっていうよっぺ情報はガセか?
ミスズさんと呼ばれた女の人からアイスをもらい、それを食べ食べ2人の会話を聞いていた。口の中にある飴の塩味と混ざって変な味だなあ、もっと考えりゃよかった。
「カオルちゃんはインターフェイスで?」
「はい、今年もIFで。水鈴さんは」
「アタシは公募だね。カオルちゃんこの子は?」
「あ、コイツは定例会委員長で緑ヶ丘の伊東です。今回はPAの方で」
「よろしくーッ」
「あっ、緑ヶ丘の伊東です。よろしくお願いします」
話を聞いていくと岡島水鈴さんは星ヶ丘の4年生で、インターフェイスの活動に出てくることはなかったけど、それはもうステージMCの上手いアナウンサーで――って、どっかで聞いたぞ。
「インターフェイスってことは洋平とも」
「あっ、よっぺとは結構仲良くしてますフットサルやったり」
「そうなんだー、洋平は相変わらずだなー」
そうだ、よっぺが憧れてるっていうMCさんか。そうか、この人が。でも何か納得だな。人を引きつける力みたいなものは、この短時間でも確かに感じる。
「アタシの妹が向島の1年なんだけど、今年は夏合宿に出るとかって張り切っててさ。もし会うことがあったらよろしくね」
「向島の1年で岡島――えっ、奈々ちゃんの姉ちゃんですか!?」
「えっ、知ってる!?」
「その合宿で奈々ちゃんと同じ班なんですよ! あと幼馴染みの妹の高校の友達だって」
「世間って狭いねーッ! ああ、じゃあ班にいるすごくミキサーの上手い3年生の先輩って」
「多分俺ですね、それ。あ、いや、技術的なことはともかく班に3年は俺しかいないんでっ、てか姉妹仲いいんですねそういうこと話してるとか」
「仲いい方の姉妹だっていう自信はあるよ」
奈々ちゃんの方もうちの姉ちゃんがーという話はよくしているし、その言葉に嘘はないだろう。今度はカオルが何が何やらわかっていない様子で、知りうることを全部話すと世間の狭さに感心したようだ。
今度は奈々ちゃんにも姉ちゃんと会ったことを話してみようか。いや、その前に姉ちゃんの方からから話が行くだろうな。
「本当は奈々ちゃんのサークルのトップも来てるんですけど、この暑さでダウンしたらしくて」
「カオルちゃん、自己流で休んでるんだったら誰も見てないトコで死んでるかもしれないよッ! お見舞い行かなきゃ! ピー子ちゃん動画で癒してあげ」
「水鈴さん、ピー子ちゃんじゃ効果ないと思います」
end.
++++
――とまあ、こういうのもアリだと思ってしまいました。圭斗さんはとうとうふらふらと消えてしまったらしい。ドンマイ!
ピー子ちゃんで癒されるのは岡島家独特の価値観なのでしっかりと止めてあげる朝霞Pな……
幼馴染みの妹の高校の友達とかいう近いのか遠いのかイマイチよくわからんアレ。浅浦クンの名前を間接的にとは言え久々に見た気がする。