「あっつー」
「いつも思うけど、エアコンも入れないでフローリングに張り付いてて暑くないワケがなくないか」
「ンなこたわかってんだよ」
タンクトップにハーフパンツといった軽装でフローリングに張り付くのがコイツの夏の過ごし方。実家の部屋に戻ると1日を大体そうやって過ごしているのだから、あまり暇でも考え物だと。
盆の墓参りも済ませ、しばし実家で過ごす俺を後目に伊東は明日明後日を忙しく過ごすらしい。何でもエリアの各地で行われる祭のスタッフとして働くことになっているらしい。
普通、イベント前日って言ったら最終確認とか通しリハーサルのような物がありそうだけど、そういうこともなく。それまでがタイトなスケジュールだったから、存分に休んでくれということらしい。
「その体勢だと休むにも休めなくないか」
「いや、案外ラク」
うっすら汗を滲ませながらフローリングに横たわる姿は、伊東がその姿勢を基本にしていると知らなければ倒れているのではと思われても仕方ない。それくらいには力が抜けている。
まあ、それに付き合ってエアコンのないこの部屋にいる俺も俺か。盆正月は親戚がよく来るんだけど、その挨拶に疲れきって辿り着く先がここなのだ。何故か居心地がいい。
「つかお前いつまでこっちいんの」
「特に戻る理由もないし、気の向くまで」
「ふーん」
「お前はどうするんだ」
「盆開けたらもう戻る。慧梨夏も戻ってくるだろうし」
「そうか、あの人は遠征中か」
「こっちだとすることがなくてヒマなんだよな」
例えば、日頃はほぼ2人分こなしている家事だとか。あの人がいるから普段からそれなりの料理を作ってはいるが、自分一人だと適当に済ますことも案外少なくないのだ。
最初のうちは何もしなくても食事が出てくることに感動していたらしいが、そのうち物足りなさを感じ始めたとか。実家で出来る一通りの家事は済ませて、それでもやることがないとこうなる。
「浅浦、何か飲むモン持ってきて」
「お前の家だろ」
「お前は今更だ」
「で、何がいいんだ」
「冷蔵庫にアロエドリンク入ってないか多分。なかったら何でもいーや」
俺も今更自分を客だと思っていないと言ってしまうと語弊が生じるのだけど、今更お客様扱いしてもらえる立場でもない。かと言って、人様の家の台所に立つのは気が引ける。
リビングに顔を出したら都合よく美弥子か誰かがいないだろうか。そうすれば、非常識なこのぐうたら男に雷の一つでも落としてもらえそうなものだけど。
「雅弘、相変わらず避難場所にしてくれて」
「あ、京子さん。お邪魔してます」
顔を出したのは伊東の母さんだ。ちなみに、京子さんと呼ばないと叱り飛ばされる。おばさんなんて呼ぼうものなら俺の命はないだろう。そして京子さんはこの部屋の暑さにたじろぐ。
「――ってカズ、アンタいつまで張り付いてんの」
「んー」
「こんな暑い部屋で。倒れるからほどほどにしときなさいよ。雅弘、何か飲みたかったら冷蔵庫に麦茶あるから」
「えっ」
「欲しかったらご自由にどうぞ。コップは戸棚の」
「開き戸の中、ですよね」
「何だ、知ってるんじゃん」
この子にしてこの親ありか。そもそも、フローリングに張り付くこの男は俺がどうこうではなく自分が何か飲みたいがためにパシらせようとしただけだ。
「浅浦ー、何か飲みモン持ってくんなら俺のもー。氷入れてきて」
「お前は調子に乗るな」
end.
++++
夏の、と言うか実家でのいち氏は大体こんな感じでぐだぐだとしております。慧梨夏がいないので張り合いがない模様。
先日、久々に浅浦クンの名前を間接的に見たのでそろそろやっとかねばと思ったところにお盆到来。近所だとやりやすい。
自分の子供だけじゃなくて浅浦クンにも京子さんて呼ばせてたのね京子サン……まだまだおばさんと呼ばれるには早いらしいけどおばあちゃんになる日は夢見てるよ!