「はー、やっぱたまの銭湯はいいなー」
「それは否定しねえ」
特に理由はないけど、やっぱりたまに大きなお風呂に入りたくなる。それがたまたま今日だった。ダメで元々、高ピーに声をかけてみると、意外にも二つ返事で乗ってきてくれた。
濡れた髪を掻き上げ、高ピーはボディタオルで石鹸を泡立てている。浅浦と銭湯に来るのは珍しくないけど、高ピーのひとつひとつの仕草が何となく新鮮だ。
「高ピーのオールバックとかレアだね」
「は?」
「やっぱ前髪長めだとジャマになんの?」
「まあ、そう言われりゃ結構」
高ピーの体を見ていると、俺も腹筋を割ろうとして筋トレの腹筋運動を頑張ってみた時期のことを思い出す。結局長く続かなかったから、くっきりとわかる割れ目はない。ちきしょい。
高ピーは水も滴るいい男というヤツなんだと思う。一糸纏わぬ姿も堂々たる出で立ち。そもそもが前をタオルで隠さない派だ。いやー、すげーなー、羨ましいなー。
シャワーでお湯が流されて、再び露わになったその肉体だ。不覚にも華奢と言われることの多い俺にはとても羨ましい程の肉体美。高ピーほどとまではいかなくても、もう少しガッチリしたかったなあ。
「伊東、さっきから何チラチラ見てやがんだ」
「いやあ、俺ももうちょっと高ピーみたいに健康的な体格だったらなあってさ」
「確かにお前は華奢だしな。つかお前、ロッカーの鍵足首にしてんのにコード全然伸びてねえじゃねえか。どんなほっそい足首してんだ」
ちゃんと飯食ってんのかと心配されたけど、俺がどんな食生活をしてるかは高ピーも知っている。どちらかと言えば、量はともかく三食しっかりバランスよく食べている方だ。
母親である京子サンが言うには「お腹の中から出てくるのが予定より数ヶ月早かったのが影響してるんじゃない?」とのこと。それが正しいかどうかはわからないけど、原因不明よりは救いがある。
「お前そんなフライングしてたのか」
「うん、そうみたい。しばらく保育器に入ってたんだって」
「それなら、多少華奢だろうがちゃんと育ってることを喜べ」
「まあ、そうだけどさ。高ピーは子供の頃からしっかりご飯食べてたの?」
「お袋が言うには、食いっぱぐれないように戦ってるみてえだったってよ」
「ナニソレ。あ、双子だからみたいなこと?」
「――じゃねえのか?」
高ピーはそれだけ言うと改めてお湯をかぶり、タオルを持って浴槽へ歩いて行ってしまった。俺も慌ててそれを追い、湯船で足を伸ばしたその横に落ち着く。
高ピーに苦情をひとつ漏らせば、洗い場でチンタラするのは好きじゃないとまた「らしい」返し。でも俺の言葉に引っかかったんだろうなあっていう気がしたから、一応謝った。高ピーの視線は、別のところにある。
「つか電気風呂って何だ?」
「高ピー電気風呂行くの?」
「いや、気になっただけだ。お前は座ったことあんのか?」
「俺はあんまやんないけど浅浦がよくやってる」
「アイツ、意外とおっさん臭いトコあるんだな」
「そうなんだよ」
でもどうせなら打たせ湯や、気管支にいいという薬草の蒸気風呂にも入ってみたいと高ピーが言えば、俺はそれについて行くだけ。せっかくの機会だし、高ピーに体づくりの方法を聞いてみるのもいいかもしれない。
「伊東、次露天行くぞ」
「あっ、高ピー待って!」
end.
++++
この2人はナノスパでも全裸率の比較的高いキャラですね! いや、まあ、お風呂の話があったりなかったりっていうね。
いち氏は高崎くらいの体格に憧れがあるらしい。まあ、事あるごとに華奢華奢言われてるもんなあ。腹筋を割ろうとしてたときは、部活の時とかも腹筋やってたりとか。
浅浦クン、意外とおっさん臭いところがあるというのはちょいちょい言われ始めてきたこと。露天で雪見風呂しつつ日本酒が飲みたいらしい。