「あー、久々にミキサーに触れるー!」
「ゲンゴロー、嬉しそうだね」
「うん、ずっと頭の中でシミュレーションするしか出来なかったから。久々の実戦練習は嬉しいよね」
「やる気があるのは結構じゃないか。果林、よかったな」
「そうですね」
夏合宿寸前、詰めの段階に入ってきた。早々に番組が形になっていたアタシたち4班だけど、変則的な番組編成だから練習に次ぐ練習。それはなっち先輩の精神がアタシたちに及ぼす影響でもあった。
本番に1番近い環境の向島の機材。それを前にしてゲンゴローが目を輝かせている。なっち先輩もそのやる気には感心しているし、りっちゃんも教え甲斐がありそうだとにっこりしている。
「でもゲンゴロー、学校で自主練とか出来ないの? 俺結構勝手に触ってたけど」
「あー、出来なくはないと思うけど、絶対バレない方法を考えてからじゃないと後が怖くて」
「えっ、何それ」
「えーと、星ヶ丘での朝霞班の扱いについては知ってる?」
タカちゃんとユキちゃんの1年生は知る由もない、はみ出し者集団朝霞班の部内での扱い。アタシがつばめから聞いた話を簡潔にまとめると、それはもう不遇とか理不尽とか、そんな。
そんな扱いを受けているが故に自由に機材に触ることもままならないし、部室の鍵を開けよう物なら何をしていたのかいちいち事情聴取されるとか。そりゃ他校で触るミキサーに感動するわ。
「え、そんなに大変なんだったら言ってくれればMBCCのサークル室で一緒に練習出来たのに」
「そうだね、タカティに言ってみればよかったよ」
「他校の人を入れても大丈夫でしたよね果林先輩」
「うん、合鍵と貴重品の場所さえ教えなきゃね」
他校の人を入れてる間に何かあったらそれこそ事情聴取モノだけど、それが身内でも繰り広げられるとか星ヶ丘マジ修羅の国でしょ。そして、緑ヶ丘の合鍵の件についてはスイマセンとなっち先輩がぺこり。
「え、奥村先輩何かあったんですか」
「まあ、ウチの某M氏のやらかしだな。緑ヶ丘のサークル室に勝手に侵入して荒らして来たらしい」
――というようなことを高ピー先輩といっちー先輩が眉間にシワを寄せて話し合ってたのを聞いちゃったから、そういう事実があったのは知ってる。でもM氏って。全然伏せれてなくてウケる。
「奥村先輩、M氏って噂に聞く三井先輩ですか」
「名字Mは3人いるから一応ぼやかしたつもりだったけど、ぼやけてなかったか」
「やァー菜月先輩、圭斗先輩の名字が「Matsuoka」だってのは意外に知られてないと思いやすぜ」
「そっか、石川以外に圭斗を名字で呼んでる奴なんか見たことないもんな」
「あ、それで言うとウチの山口先輩も名字で呼んでると思います。松岡クンて誰だろうと思ってたんですけど、圭斗先輩だったんですね」
「ああ、そう言われたら確かにそうだな」
そしてゲンゴローは、インターフェイスもいろいろあって面白いですねとにこにこ笑っている。アタシから見れば星ヶ丘ほど壮絶な学校もないと思うけど。
「よし、とりあえず練習するぞ。せっかく本番に近い環境で通し練が出来るんだ」
「そうですね。あ、でもアタシのペア気持ち時間もらって大丈夫ですか? せっかくだしゲンゴローに機材触ってもらわないと」
「奥村先輩、通し練習ってことはリクエストやインフォメーションも入るんですか」
「望むなら入れてもいいぞ」
end.
++++
多分ゲンゴローは自分の学校でも思う存分機材を触ったことがないんじゃないかなと思ったことから。だって朝霞班だもの!!
ちなみにMMPの3人のM氏は圭斗さん、三井サン、村井サン。名字じゃなくて名前も入れたらノサカもだね。
圭斗さんの名字って松岡でしたね……あんまり使わない圭斗さんの名字でした。大体みんな圭斗って呼ぶもんねえ