つばめサンは、明らかに荒れていた。そりゃ、気の長い方かっつったらそうじゃないだろうとは思ってたけど、これはヒドい。夏合宿まで日がないってのに班の雰囲気は最悪だ。
確かに、班の顔合わせの時につばめサンがいの一番に言ったのが「どんな事情があろうが誰だろうが班の雰囲気を乱すようなことをすれば容赦はしない」ということ。
反抗ととられかねないそれは、恐らくその言葉に忠実に動いた結果。つばめサンがキレてるのは班の雰囲気を乱すことに入らないのかと問われれても、ヒラ班員の1・2年はみんな入りませんと答えるだろう。
「あーもう、ホント何なんだアイツは! 日高の次にぶっ飛ばしてやりたいとかマジ相当だろ」
「ミラ、大丈夫っすかね」
「ラジオにほとんど携わらないからこそ逆にわかるけど、少なくともアイツはインターフェイスで1番上手いアナではない」
班打ち合わせ後、つばめサンに引きずられてやってきた喫茶店で飛び交うのは愚痴が8割。その対象はつばめサン率いる俺たち3班にいる向島の3年生、ミッツさん。
まずあの人は顔合わせの時からスゴかったっつーか。僕くらい上手いアナと番組を作る機会なんてそうないからいろんなことを学んでねとか、最近のインターフェイスのレベルはタカが知れてるとか。
そこまで言うからにはさぞかし目玉が飛び出るくらい上手いんだろうなと、食い入らず、俯瞰気味のココロビジョンで見ていると。まあそれはそれは、あの人がディスった高崎先輩のが数段上だったっていう。
挙げ句、ペアを組んだ青女1年ミキのミラに対して僕と組むにはレベルが低すぎるだのその程度で番組になるとでも思ってるんだったら甘すぎるなどと、本人的にはありがたい助言のつもりで毎回泣かせている。
その結果、つばめサンとミッツさんのバトルが繰り広げられていて、班の雰囲気がそれはもう大変なことになっている。あ、1・2年生はそれなりにまとまってんだ。
「対策委員で班決めるとき、めんどくさい上には慣れてるとかって簡単に引き受けるんじゃなかったよマジで」
「でもつばめサンマジ英雄じゃないすか他の班長から見たら」
「だよね。エージはアタシの味方か」
「当然っすよ!」
多分俺だけじゃなくて副班長のL先輩も、他の班員もみんなつばめサンの味方だ。班長のつばめサンやペアを組んでるミラだけじゃなく、他のみんなもわちゃわちゃと小言を言われているのだから。
それを想っているのか、つばめサンは3年ロシアンルーレット外した感バリバリだわ、と背負った十字架の重さと撃たれて飛び散る脳天のイメージにじりじりと寄られている。
「なっちサンとかカズ先輩は当たりっぽいっすね」
「だね。啓子さんとかカズさんに良くしてもらってるみたいだしさ、果林も菜月サンと冒険してるみたいだし。大体野坂アイツ、向島だからって理由であの人拒否したんなら何で同じ向島3年アナの圭斗サンと同じ班になってんだって意味分からんわマジで」
「マーシーさんは普段から大変そうっすし、察しはするっす」
「まあね。元が鬱気質なのにあんま野坂に負担過ぎても良くないし」
うだうだ言ったところでつばめサンと俺の反抗的な性格が直ることはない。理不尽なことには真正直に口が出てしまうっていう。班の雰囲気どうこうの前に。
「でもマジで日がないから、アイツの相手よかミラのケアを優先しなきゃだわ」
「ホントっすね」
「エージ、アタシがアイツにキレたらそれとなく抑えてよ」
「えー!? 怖いんすけど!」
「アタシも大人にならなきゃねえ。一歩引いた目で穏やかに、穏やかに」
「そう簡単に出来りゃ苦労はしないんすけどね」
end.
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今年度の夏合宿、修羅場班と名高いつばめ班の一幕。ちなみにエイジとつばちゃんはペア。この2人は結構気が合うらしい。よく考えりゃバイザーコンビだ。エイジキャップのが多いけど。
そう、実はもうあまり日がない。それなのに雰囲気があまりよろしくないのはつばめ班。でも三井サンはよかれと思ってるんだよ!
他の対策委員からすれば本当につばちゃんは英雄よね。めんどくさい上には慣れてる、とは言え限度があったらしい。つばちゃん星ヶ丘でも頑張れ。