「そう言えば、こないだ星ヶ丘のステージを見てきたんだよ」
「圭斗先輩来てたんですか!? 私のつばめ先輩は素敵でしたよね!」
「ん、つばちゃんはよくやっていたと思うよ」
夏合宿の班打ち合わせで、話題のひとつとしてこの間の出来事を発すれば、それに食いついてくるのはその現場にいたはずの1年生だ。この食いつき方に少したじろぐ。
浦和茉莉奈、星ヶ丘の1年生アナウンサーだ。初心者講習会には出ていなかったらしいけど、その間に何の心境の変化があったのか、夏合宿には出ることにしたらしい。将来はプロデューサー志望だと。
「つかマリンのつばめ信仰は何なんだ」
「そうは言いますが、マリンも野坂先輩にだけは言われたくないと思いますよ」
そう、マリンと名付けられたこの子は何故か同じ星ヶ丘の先輩であるつばちゃんを崇拝しているのだ。それこそ、僕に対して妙な敬い方をする野坂のそれに匹敵する(野坂には反面教師にしていただきたい)。
「ところでマリン、つばちゃんのことが大好きになったきっかけは何だったんだい? 言ってしまえばつばちゃんはアウトローだろう?」
「それは私が元カレと部室でいちゃついてた時のことですよ。そこに来たつばめ先輩は私たちを一言蔑んで荷物を取りに入ったんです。で、先輩が部室から出るときに、盛りたいならホテルに行けって吐き捨てられたんですよ」
このエピソードだけを見れば、到底つばちゃんのことを大好きになるような理由には思えない。これには野坂もアオも絶句している。どうやら理論派の2人にも理解が追いつかないらしい。
「……えーと、そのエピソードで?」
「はいっ! 胸に槍を突き刺されたような衝撃でした! それからつばめ先輩のことが気になって朝霞班のブースを覗いたりステージ練習も陰からつばめ先輩だけを追い続けました! 将来はプロデューサーになってつばめ先輩を私の班に引き抜いた上で王国を築きます! このストップウォッチも調べてつばめ先輩とお揃いのを買いました!」
「やってることがストーカーじみてるのはともかく、目標があるのはいいことだね」
とにかくこのエピソードでわかったのはマリンが凄まじくドMだということと、つばちゃんが部内恋愛を気持ち悪がるというだけの理由で彼氏と別れたこと、そして、邪念混じりの野望があるということだ。
きっとそれは、初心者講習会から夏合宿の参加申し込み期間までの出来事なのだろう。インターフェイスの活動に出るのもきっと、つばちゃんに少しでも近付くため。そう見えて仕方ないね。
「野坂先輩どうしてつばめ先輩と同じ班にしてくれなかったんですかー!」
「俺に言われても」
「いーえ、対策委員で一番偉い人に苦情を言うのが早いです! はっ、その理屈で言えばインターフェイスのトップの力で」
「ん、夏合宿での僕は向島のいちアナウンサーだからね。クレームは対策の議長に、どうぞ」
「ちょっ、圭斗先輩!」
盲目的な後輩の恐ろしさを、お前もその身を以って知るといい。そして僕に対する態度も少しは改めていただきたい。これを遠巻きに見つつ僕は無神論者というアオに、どう見るかを問うんだ。
「マリンのこれは、つばちゃんを神とする宗教かい?」
「いえ」
「ん、それじゃあどう見る?」
「色欲ですね」
言いえて妙かな。
end.
++++
実際に彼女に活躍してもらうのは来年かその先になると思いますが、ここらで布石。星ヶ丘1年P志望アナ、浦和茉莉奈さん登場。
恐らく将来的には定例会に行くことになるのかな。DJネームはマリン。たまにコアラのマーチとか食べてたらかわいいと思いました。
きっとつばちゃんそういう風にベタベタされるのも好きじゃないだろうから普段からマリンをバッサバッサと斬ってるんだろうなあ。それすら快感だろうけど。