夏という季節のなせることなのか、その場には懐かしさを覚える顔が集まってくる。対策委員の会議をしていたカフェの2階禁煙席、壁側の席。最初に来た奴が隣の机をくっつける作業も変わらない。
先に来ていた石川とその作業をしながら、俺たちを呼んだ福島さんを待つ。あの人が俺たちを呼んだからには何かしらちゃんとした話なのだろう。それが俺と石川の共通認識だった。
「みんな来たね〜、久し振り〜」
階段からひょっこり顔を出したなりに俺たちに声をかけてくる山口も相変わらずの様子だ。山口の持つトレーには飲み物が2つ。カフェラテとホットの紅茶。
「山口、福島さんは?」
「紗希ちゃんも一緒だよ〜」
「高崎クン石川クン久し振り」
今日来るメンバーが揃ったところで本題へ。だけどその本題は俺たちを呼び出した福島さんではなく、山口から語られる。もしかしてこの2人の間で話が進んでるんだな。
「夏合宿?」
「うん、モニター会に行こ〜よっていうお誘い〜」
「つかそれくらいならメールでいいだろ」
「直接会わなきゃ粘れないジャない」
「は?」
「じゃあ聞くけど高崎クン、めんどくさいメールにいちいち返信しますか」
「放置に決まってんだろ」
「でしょ? だから直接交渉するんじゃない。負けても相手に爪痕を残す! 次は断れないぞと思わせる火だるま交渉ってヤツね〜」
「つか今断られたら火だるまになる意味ねえだろ」
山口の言っていることを要約すれば、顔を突き合わせて話した方が交渉の成功確率も上がるでしょでしょ、ということらしい。だけど俺と石川は腰が重そうだぞ、と福島さんの名義を借りたと懺悔された。
確かに福島さんはインターフェイスの中でも普通の女子で、それ故あまり強く出れないのは事実だった。それはこの性悪にしてもそうで、福島さんの笑顔にはどんな獰猛な奴でも飼い慣らす能力があるのだと。
「またどうしてモニター会に」
「つばちゃんにさ〜、合宿を客観視出来る人間のいないモニター会とかクソだから頭数揃えて来いって脅されててさ〜」
「つばめの言うことも一理あるな」
「で、紗希ちゃんに声かけたらせっかくだし前対策メンバーで行きたいねってなって。長野っちは地元に帰ってるから来れないけど」
「菜月ちゃんも合宿に出てるし、また前対策のみんなで集まれたらなって思って」
まあ、確かに菜月と高木の番組には興味があったし、きっかけさえあれば行ってもいいとは思っていた。山口のやり方には呆れたが、福島さんに言われてしまえば折れてもいいだろう。
同じように現在の対策委員との邂逅があったらしい石川も、せっかくだしと首を縦に振った。それを見た山口と福島さんがハイタッチなんてするものだから、してやられたと。
「せっかくだしみんなで行きたいよねよね〜、石川クン車出してよ」
「それはいいけど、この箱モノアレルギーはどうする?」
「あ〜、それがあったネ〜」
こればっかりは梃子でも核弾頭でも動かねえ。そう決めた。絶対酔うのがわかってて車に乗るバカがどこにいる。
「しょうがないよね〜。じゃあ石川クンの車に俺と紗希ちゃんが乗って高崎クンは二輪で〜」
「でもせっかくだしみんなで行きたかったね。高崎クン乗り物酔いヒドいし無理は言えないけど」
「……あ、まあ、少しくらいなら我慢出来るだろ。菜月もいねえし助手席もらえれば、まあ」
「マジで!」
「高崎クン、大丈夫?」
「まあ、せっかくだし」
「わあ、ありがとう! 楽しくなるといいね」
そして再び交わされるハイタッチ。なんつーか、あれよあれよと福島さんと山口のペースにハマってる気がする。それを隣で見る性悪は、我関せずの笑み。
「それじゃあまた細かいこと決めたら連絡するね〜」
「次はお前が自分でメールしろよ」
「わかってるって〜」
end.
++++
前対策委員はひょっとしなくても紗希ちゃん最強説なのでね。でも洋さきのコンビが案外しっくり来る。かわいい。
去年上げた短編の「宿る情熱のシークエンス」に至るまでを妄想した結果こうなった。つばちゃんから脅されたら洋平ちゃんは動かざるを得ないのでね。かわいい後輩のためだから!
あと火だるま交渉ってのはアレ。自分も燃えるけど相手も燃やしまっせーっていうヤツ。確実に爪痕は残していくよ!