夏合宿当日は、ただただ慌ただしく時間が過ぎていた。あまりのドタバタで途中の記憶がすっぽ抜けているというのが正直なところ。ようやく1日目の夜を迎えた。これがあと1日半か。
青年自然の家のお風呂は24時まで入浴することが出来る。現在時刻は23時半。今までも各種講習や明日の準備でバタバタしていたのに30分も入浴時間が取れたのはありがたい。
敢えて他の対策委員を先に風呂に行かせて自分が仕事をしていたのは、この場所で少しでものんびりしたいがため。深夜の大浴場を貸し切れるだなんて、贅沢じゃないか。
「――って圭斗先輩伊東先輩! いらっしゃったのですか!?」
「あ、野坂お疲れー」
「ん、お前も今からかい?」
「はい。明日の準備も一段落したので」
3年ともなると人が多い中できゃっきゃと風呂に入るのも疲れるんだよ、と尤もらしいことを圭斗先輩は仰るけど、単にゆっくりしたかったんだろうなとは推測出来る。
しかしまさか3年生の先輩方と共にお風呂だなんてそんなそんな、こんな贅沢な機会があってもいいものか、対策委員じゃなかったらこの時間に風呂に入ろうとは思わなかったし議長職バンザイ!
でも風呂場で聞く圭斗先輩のお声は反響していろいろとマズイ。ここでこの素敵な声で腰抜けになろうものなら大恥だ、IFで生きられなくなる。気は張らないと。
「あっ、あの圭斗先輩お背中を流しましょうか」
「いや、お前の方が大変だっただろ。僕たちのことは気にしなくていい」
「でも野坂はやっぱいいカラダしてんなー、ちょっと触らして。タオル取っていい?」
「ちょっ、伊東先輩急に何を――ってタオルは待ってください!」
「うわー、筋肉いいなー、肩幅もあるし羨ましいなー、腹筋腹筋」
確かに伊東先輩は華奢だと前々から思っていたけど、こうやって風呂場で見ると確信に変わる。ちょっと触ったら折れるんじゃないかってくらいに細いんだから。圭斗先輩もだけど。
伊東先輩がぺたぺたと俺の体を吟味する様は圭斗先輩が生暖かな目で見守っていた。現時点で妙な意味はないだろうから心配しなくていい、とフラグになりそうな地雷を置いてくださったのは気になったけど。
「やっぱさ、高ピーとか野坂だよ。マジ憧れんだって、わかるか?」
「はあ。そういうものですか」
「はー、腹立つー! 持って生まれた物かちきしょいこの野郎」
「ですが伊東先輩は大型二輪に乗れますし見た目よりはしっかりとした体が出来ているということではありませんか! ――ってちょっ伊東先輩手! 腹筋!」
「つかお前めちゃ食うし超甘党なのに何で腹筋うっすら割れてんだ腹立つ〜!」
「それは持って生まれた物としか」
伊東先輩の手が腹をまさぐり、あれよあれよとされるがまま。圭斗先輩は優雅に湯船に浸かっていらっしゃる。水も滴るいい男とはまさにこのことか!
「伊東、嫉妬は見苦しいぞ。お前だって僕よりはマシだろう」
「まあ、それはね」
「野坂、伊東の腕を触らせてもらうといい。見た目より凄いぞ」
恐る恐る伊東先輩の腕を触らせてもらえば、手首から少し上までは親指と中指の輪っかに収まってしまうのに、その内容だ。骨と皮だけじゃなくて筋肉もある。二の腕も然り。さすがバイク乗り。憧れるな〜。
「伊東先輩は彼女さんもいらっしゃいますし日頃から体のあるべき使い方をされてそうですよ。持ち腐れるよりは断然。特に腕なんかは女性の方が好きそうな血管の出る細マッチョ的な感じではありませんか」
「体のあるべき使い方って野坂お前その表現は。それとも疲れてんの?」
「いや、向島での野坂は下ネタ要員だから割と通常運行だよ」
「そうか! まあ野坂、いろいろな意味で……頑張れ!」
そして風呂場には背中にモミジの出来る音が響いた。いろいろな意味というのは気になるけど、風呂から上がれば慌ただしさに紛れて忘れるだろう。嵐のような入浴時間だったけど、まあ、これはこれで息抜きにはなったな。
end.
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最近よくやってた全裸回、ついに向島キャラが進出してきました。ついにノサカと圭斗さんも全裸デビューだよ!
いち氏はやっぱりもうちょっと健康的な体つきがよかったなーっていうのが気になってる。でもやつれてる圭斗さんよりかはマシって思ってるらしい。
のんびりお風呂に入りたかったノサカだけど、逆にのんびりできなかったね! 贅沢なバスタイムだ! そんな夏合宿1日目。