自分がこんなに繊細だった覚えもないんだけど、枕が変わったからか、場所が違うからか、はたまた明日に迫った番組本番に対して緊張しているのか、全然眠れない。
何とか眠ろうと目を閉じても、目を閉じた分だけ耳が冴えて、いろんな音を拾ってしまう。人の寝息だとかいびき、あと……これは、歯軋り? あー、ダメだ! 気になって眠れない!
枕元のケータイで時間を確認すれば、深夜3時。いい加減寝ないといけないんだけどなあ。彼是2時間はこんな感じ。寝る前にカフェインの強い物でも食べちゃったっけ。覚えはないんだけど。
トイレにでも行けば気が紛れるだろう。そう思ってケータイ片手に男子部屋を出た。静まり返った廊下には、非常口を指す看板がうっすらと点る。えっと、そこの突き当たりを曲がって――
「わっ」
「わーっ!」
曲がったところの階段には、ちんまりと座る人影。あんまりびっくりしてつい叫んでしまった。今は夜なのに。誰かに怒られたらどうしよう。幽霊? ……ではなさそうだ。ふう。よかった。
ケータイの充電器をその辺のコンセントに挿しているところから見て、ただトイレに起きてきたような雰囲気にも見えない。俺より前に部屋を出た人の気配もなかったし、いつからここにいるんだろう。
「えっと、タカティ……だっけ。何、してんの…?」
「元々夜行性だから眠れなくてさ。寝酒でも出来れば良かったんだけどそれも出来ないし。そっちは?」
「俺も眠れなくて」
部屋に戻ってもどうせ眠れないだろうし、俺も階段に腰を下ろした。何か、夜にイケナイことをしてる気分になって、何だか修学旅行を思い出す。
「ミドリも夜行性なの?」
「そういうワケでもないんだけど」
「もしかして、神崎先輩?」
「なの? 暗いからわかんないけど。でも男子部屋、いびきと歯軋りがすごいよ」
「土田先輩が言ってたけど、神崎先輩のいびきと歯軋りはヒドいらしいよ。ちゃんと寝たかったら神崎先輩より前に寝付くか耳栓持ってくるかしなきゃダメだったみたい」
「あ、そーなんだ」
それから、時間も忘れて話していた。番組のこと、班のこと、学校のこと、一人暮らしあるある、それはもういろいろ。ケータイのアドレスも交換した。トイレに起きてくる人もそんなにいなかった。みんな眠っているのだろうか。
「ふぁ〜わ、今何時…?」
「5時前だね」
「――って! さすがにそろそろ寝なきゃ!」
明日は番組本番なのにどうしようどうしよう。そんな不安や焦りでバクバクする。どうしよう、こんなんじゃ寝れる気がしないよ。7時には起きなきゃだし、どうしよう。
「……何やってんの」
「あ、野坂先輩。おはようございます」
久々にぺたぺたと誰かが近付いてきたと思えば、寝ぼけ眼を擦る野坂先輩。どうやら俺たちのことにも驚いてはいないようで、寝ぼけているなりに冷静に状況を整理しているようだ。
「今起きたの…?」
「あ、いえ。眠れなくて」
「あー、こーたがやらかした系?」
「俺はそうでもないですけど、ミドリはそうみたいですね」
「あー、ゴメン。マジで猿轡咬ませときゃ良かったな。律の奴、何やってんだ」
2時間くらいしか寝れないだろうけどせめて、と俺たちは対策委員の男子部屋にお呼ばれすることになった。気付けば眠っていたらしく、やっぱり俺はそんなに繊細じゃなかった。
だけど、さっきまでのことは後々、あんなこともあったねと語り合う思い出くらいにはなったと思う。そう考えると、この短い夜も案外悪くなかったのかもしれない。
end.
++++
先にカンザキのいびきがーとMMPで話し合っている話を書いたのですが、誰が困らされていたらかわいいだろうかと考えた結果、ミドリ、キミに決めた!
そしたらタカちゃんも電気泥棒しつつ階段に座ってるしでタカミドがほわほわしてかわいいので正義。タカミドはまったりしてるといいね。
って言うかタカちゃんが寝酒とか言ってんの合宿でも歪みないしさすがタカちゃんですわ……(笑) そんな夏合宿2日目。