「なあ高木、お前もうちょいしたらしばらく実家に帰るとか言ってたよな」
「言ったね」
「……これが実家に帰ろうっつー部屋の状況か?」
足の踏み場もない床に散乱する服は、どれが着たものでどれが洗ってある物かの区別もつかない。寝て起きたままになっているブランケットもそのまま床でくたっとしている。
部屋より問題は水回り。恐らく夏合宿前から積んであったと思われる食器に、コンロ脇に立つアルミのバベルはレプリカがいくつも作られるほど。傘立て代わりのバケツに突っ込まれたペットボトルも酷い。
「最悪部屋はいいべ? 水回りこのままにしてく気か」
「やろうとは思ってるんだよ」
「そう言ってやったことがいつあるっつーんだ、見ててやるから今すぐやれ」
そう言って家主は渋々立ち上がる。台所に向かってくる手が手ぶらなのもおかしい。何故なら、くたびれたブランケットの脇には寝酒の痕跡と思われるグラスが佇んでいたのだから。
それを持ってくるなり流し台の中に置いて部屋に戻ろうとするものだから、お前は俺が何を言ったかわかってんのかっていう。水回りを片付けろつったはずなんだけどな。
「ねえエイジ」
「あ?」
「これ、どこから手をつけたらいいと思う?」
「知らんべ、好きなトコからやったらいいだろっていう。冷蔵庫も見とけよ、帰ってる間に悪くなりそうなモンは今日使うとかしねーと無駄になっちまう」
「卵、あと8個あるんだけどどうしよう」
「だからお前は、使える量を買え」
結局卵は炒めたり茹でたりすることで適当に消費することに決めた。なぜその調理を俺がやることになっているのかは、気付いたらそうなっていたとしか言いようがない。
コイツの部屋に出入りするようになって剥がれてきた化けの皮は分厚い。最初の頃はやっぱりそれなりにきれいにしてたのに、気付けばこの有様。典型的ダメ人間だ。
コイツをクソマジメだなんて思ってた俺の見る目なんて物はこれっぽっちも当てにならなかったことを思い知る。コイツはクソマジメじゃなくて単なるクソ野郎だ。
「こんな汚い部屋で生活出来るとかお前の神経を疑うっていう」
「うーん、掃除しなきゃとは思うけど、別に死ぬわけじゃないし」
「は!? 死ぬべ!」
「エイジは大袈裟だなあ。現に今死んでないでしょ」
そう言って、高木はコンロ脇のバベルを崩し始めた。だからと言って油断は出来ない。空き缶にも地域ごとの処理方法という物があるはずで、コイツがそれを知っているかどうかは疑問だ。
部屋の戸棚の奥深くにしまわれていた分別方法の紙を見るところによれば、空き缶・ペットボトルは洗ってマンション前の集積場でいいらしい。近いんだから定期的に片付けろっていう。
「ねえエイジ」
「んー?」
「片付けたら買い物行こうよ」
「いや、つかお前これは実家に帰るための準備であって、無駄な食材増やしてどーすんだっていう」
「え、だってお酒飲みたくない? なま物を買わなきゃいいんでしょ?」
そうやって片付けたのが無意味になっていくのかと。大体床に散らばってる服にしてもどれが洗ったのか洗ってないのか分からない以上、全部洗い直さないと気が済まないってのに。
end.
++++
ザ・ずぼら! いつもと何らやってることが変わらないけど久々だから許されるだろうくらいの勢い!
夏合宿に行っていた間、お酒は断っていただろうから久々に飲んだんだろうなあ。合宿中も寝酒したかったとか言ってるけどこれって結構ヤバめ? ヤバめですね。
そしてエイジ、「コイツはクソマジメじゃなくて単なるクソ野郎だ」と言い切った。地の文だけど。