「たーかピーせーんぱーい! おーい、せんぱーい」
「果林先輩、さすがにそろそろ留守なんじゃ」
「ビッグスクーターがあるんだからいるでしょうよ。たーかピーせーんぱーい!」
インターホンを鳴らして応答がなければドアを叩けばいい。それはまさに今現在押し掛けられている人がいつもやっていること。だけど果林先輩はまるで借金取りがするかのように絶え間なくドアを叩くんだ。
ビッグスクーターがあるからいる、というのは強ち間違ってないだろうけど、もし寝ていたとするならそれを起こすのも怖い。果林先輩は走るのが速いけど、俺は逃げられる気がしない。
相変わらずドアを叩き続ける果林先輩を見守りつつ、耳が駐車場の動きを捉えていた。誰かの車が滑り込み、去っていく音がする。まあ、車ということは高崎先輩ではなさそうだけど。
「たーかピーせーんぱーい、おーい」
「!」
「おーい、せーんぱー、ひ」
音もなく迫るその影は、無表情で果林先輩の頬を後ろからつまみ上げた。いや、無表情と言うよりは、顔面蒼白と言う方が正しいかもしれない。日焼けを抜きにしても血色が良くない。
「……ひゃはひーへんは、いひゃいいひゃいいひゃい!」
「退け」
「へゆーはろこいっひぇひゃんれふひゃ」
「あ?」
「えっと、多分ですけど「てゆーかどこ行ってたんですか」って言ってるのかと」
「ちっ」
舌打ちと果林先輩の悲鳴が同時に上がる。どうやら今の高崎先輩は相当機嫌か気分が悪いようだ。でも、ただ押し掛けてるだけでこうもならないだろうし。一体どうして……あっ、もしかして。
「高崎先輩、車で帰ってきたってことは今乗り物酔いになってますか? ……ああ、やっぱりそうなんですね。果林先輩、高崎先輩は具合が悪いみたいですし、さすがに酒盛りするのはどうかと」
「二日酔いには迎え酒って言うし、乗り物酔いにも迎え酒でいひゃいいひゃい」
すると高崎先輩は果林先輩の頬にかけた手を一瞬緩め、何か、考えているようだ。酒盛り自体に悪い表情をしていない辺りはさすがとしか言いようがない。
ふらりと駐輪場の方に向かった先輩が何かを確認して俺たちの前に戻ると、無言で上を指さした。それはひょっとしなくても、この真上、L先輩の部屋で酒盛りをしようと、そういうことだろう。
「もしかしてLもいる感じですか?」
「原付があったんじゃないですかね」
グロッキーなりに不敵な笑みを浮かべて高崎先輩が部屋の鍵を開けた。一瞬の間を置いて目の前に飛んできた物を掴むと、ヘルメット。もしかして今から出かけるのだろうか。そして果林先輩の肩をポンと叩き、改めて上を指すのだ。
「アタシはLを拘束すればいいんですね」
「あの、高崎先輩」
「タカちゃんが飲むようなお酒はLの部屋には少ないだろうからね。Lの部屋はリキュールとか甘いのメインだし」
「あ、そういうことなんですね」
高崎先輩は無言で頷き、駐輪場へ向かってしまった。それを小走りで追う。L先輩のアポはきっと取ってないだろうけど、所謂高崎理論という物で押し通すのかもしれない。高崎先輩の後ろに乗せてもらうのも久し振りだ。
「高木」
「はい」
「伊東にもLン部屋に来いってメール打っといてくれ」
end.
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果林のいひゃいいひゃいっていうのをやりたかったがためだけのお話。いつもより多めにいひゃいって言わせてる。高崎に抓られる果林がかわいいので正義。
タカちゃんが地味に名通訳? と言うかタカりんがかわいいので正義すぎてもう殿堂入りしているのは言うまでもない。
最後に名前だけ出て来てるけど、いち氏ちょっとハブられてるのがまたいち氏らしいと言うか。でも無制限やるからには専属シェフがいなきゃね!