向島インターフェイス放送委員会の夏合宿を経て、そこに出ていた拡大学の1年生はそれなりに仲良くなった感がある。きゃっきゃと喋っていたノリで連絡先を交換したりとせわしなく。
そんなこんなで、1年生だけで集まろうとなるのも必然の流れだった。発起人はハナと向島の奈々。この2人は合宿でも同じ班でそれはもう賑やかにしていたらしい。
「――と、そこまではいいべ?」
「うん」
「何なんだっていうこの殺気は……」
「エージ、ドンマイ」
目は血走り、眉間にはシワが入っている。背中に背負うのは禍々しい紫色のオーラに殺す殺すとエンドレスの書き文字。言うまでもなくその殺気は俺をピンポイントで狙っている、ように見える。
それを見ているゲンゴローの顔は、困ったような地顔がさらに困っているように映る。言ってしまえば同じ星ヶ丘のやらかしだ。お前が責任を取って止めろと言いたい気分だ。
「俺がお前に何かしたかっていう」
「何かもクソも! よくも私のつばめ先輩と公の場でいちゃついてるのを見せつけてくれたなこのちんちくりん!」
「夏合宿でペア組んだだけでそうなるのか」
やれやれ。そんな逆恨みはどうしようもない。星ヶ丘のアナウンサー・マリンからは合宿に入るやいなやそんな風に絡まれ続けている。おかげですっかり耐性もついた。
他の1年生が菜月先輩菜月先輩ってなっちサンを取り合っている間、虎視眈々とつばめサンを付け狙う影が、言ってしまえば星ヶ丘の身内に潜んでいただなんて。
「ちなみに、俺もつばめ先輩と同じ朝霞班にいるからっていうだけの理由でマリンに難癖付けられるんだよね」
「お前もか。でもお前と違って俺は学校が違う分まだマシなんだろうな。ゲンゴロー、ドンマイだべ」
「お前もお前だ! つばめ先輩に取り入って朝霞班に潜入するとかいう卑劣な手を!」
「取り入ってないし、初心者講習会に出なかったマリンが悪いんじゃん」
「くっ…!」
星ヶ丘の班編成に至るまでの経緯を落ち着いて聞いてみると、ゲンゴローのそれが殺し文句だというのがわかる。至極当然の正論を叩きつけられ、ようやくマリンは絶句した。
そもそもそんなにつばめサンといたいんだったら志願してでも班移動すりゃいいんじゃねーのかっていう。ただ、それが出来たら苦労しないらしい。
「朝霞班ははみ出し物の流刑地って呼ばれるところだからね。部内での扱いは結構キッツイよ」
「へー、お前も苦労してんだな」
「まあ、先輩たちが良くしてくれてるし楽しいには楽しいよ」
「そうやってまた見せつけやがって!」
だから私はゆくゆくプロデューサーになった暁には私の班につばめ先輩を引き抜いた上で2人だけの楽園を築くんだ。
そう語られた決意に間髪置かず、合宿でマリンと同じ班だったアオが「煩悩だらけの色欲だから」とツッコんだのにも全員納得した上で改めてドン引きした。
「中津川エージ! そういうことだから、これ以上私のつばめ先輩に付きまとったりしたらどーなるか!」
「言われなくてもしないっていう。つーか付きまとってねーし」
「キーッ! つばめ先輩にそんな価値がないだなんて! 侮辱するのもいい加減にしろーっ!」
「ゲンゴロー、これ俺どーするべきだ?」
「そうだねえ、ほとぼりが冷めるまで耐えることだね」
end.
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先日初登場した浦和茉莉奈嬢の使い方って、やっぱこういうアレなのかなあと。IF1年生はドン引きジェネレーションだからね、仕方ないね!
IF1年生唯一の常識人・エイジが結構がっつり困ってる回。いいこと言っても言わなくても殺すって返ってきたらどうしようもないよねえ
ちなみに今回タカちゃんは帰省中。ということになってるのでIF1年生の総意もまとまらず、白にも黒にも灰色にもなって大変わちゃわちゃとしております。