「リーン、食らえっ!」
「――いって…! 何です急に」
バチンと鈍い音がしたのと同時に背中に走る衝撃。その行き先はおそらく下。ごろごろ、と布地の床に転がる丸い物。相当固いソフトボール大の物が背中にぶつけられればそれなりに後を引く。
それを拾い上げれば春山さん専用武器だと察する。茹でて食えばそれはもう美味いであろうジャガイモ。おそらく、コイツの出所も春山さんの出身地であるこの国の最北端、北辰エリアだろう。
「リン、私が一応料理をすることを知ってるよな」
「そうですね、日頃の粗暴さからは想像も出来ませんが、それなりにちゃんとしたものを作れることは知っていますが何か」
「ジャガイモっつーのは、いろんな使い道のある野菜のいろはなんだ。茹でときゃ食えるからな」
「で、また大量に実家から送ってきたんですか」
「察しの通り」
知り合ってからこれまでのことを振り返ると、春山さんが実家から物を送ってきたと言うときのボリュームはそれはもう半端ではない。本当に一人暮らしにこれを消費させるのかというほどの量で。
まあ、掛け合わせてこの子になる親なのだから、それなりにどこか変わったところがあるのだろうと推測するには難くないのだが。限度というものもあるだろう、一応。
そうやってこの人からジャガイモを押しつけられること数回。とは言えオレとて家には頻繁に帰る方でもないが故に、ゼミ室に持ち帰って美奈に調理してもらうくらいだ。
「川北と土田に分けたらどうです。一人暮らしですし、困るものでもないでしょう」
「冴には10個、川北には15個あげた。川北は「わー、これだけあったらしばらくはほくほくですねー」とか言ってたぞ」
「それはモノマネのつもりか?」
「完コピだ。というワケでリン、お前には何個押しつけようか」
先に投げつけた芋はすでにオレが引き取らねばならんことに決まっているらしい。それを含めてあと何個押しつけようかと。一人暮らしでもないオレに押しつけられても。
確かに最近は家でもポテトサラダはご無沙汰で、久々に食べたいという気持ちがないこともないが、それでも3人家族なのだからそれほど個数は消費せんだろう。
「ゼミ室に置いとけば誰か使うんじゃないのか」
「残念ながら、ほぼ男所帯のゼミに食材を置いたところで腐らせるのがオチです」
「ほら、スコーンの美人に何かしてもらえよ」
「頼めば可能だろうが、それでも常識的な量で――」
「じゃあ20個な」
「人の話を聞いてるのか」
有無を言わさず押しつけられることになった20とひとつのジャガイモだ。果たしてこれをどうしてもらおうか。ゼミ室以外の当てがあれば些かラクなのだが、それも難しい。
「何か、おすすめの調理法は」
「川北は茹でて潰した芋と小麦粉を混ぜて焼くって言ってたぞ。ちなみに、それを焼かずに茹でた物がニョッキな」
「ほう」
「ま、蒸かし芋に塩辛乗っけて食うのがベストだけどな」
「それしかないのか」
「うっせーなこの野郎! テメーがオススメはって聞くからベストを返しただけだろーが!」
「腐ってもそれなりに料理をすると威張っただろうが」
そしてまた2個3個と投げつけられる芋。芋に頭ぶつけて死ねと言わんばかりだ。箱は家にあるんじゃないのか。ここに何個持ってきてるんだこの人は。
end.
++++
いい季節になってきたので春山さんとリン様がジャガイモを巡って争っててもいいんじゃないかなと思いました!
このテの話をやるときにミドリがいたのって地味に初めて? でもミドリ、茹でた芋と小麦粉と混ぜるとか結構頑張るね。しかしひらがなのセリフが似合うねえ
やっぱりリン春はぎゃあぎゃあとケンカしてるくらいがちょうどいいって言うか美奈さんいつの間にスコーンの美人になったんですか