「――というワケで、高ピーの思うコトを素直に聞かせていただけないかと」
「つってもな」
「そこをなんとか」
目の前でパンッと合わさる手の音が弾ければ、俺もそこまで鬼じゃない。特に害もなさそうな(かと言って利があるかっつったらない)そのお願いとやらを聞いてやらないこともない。
伊東が考えているのは、ゼミでちょっと議論になったという、レディースデー云々のこと。何曜日は女性の方何パーセント引きだとか、ポイント何倍、とか。そういうサービスについて。
専攻とはまた少し違ってくる事柄ではあるらしいが、消費行動、金の回り方に関することだけに経済学部らしいと言えばらしい。そこで、出来るだけ多くの参考意見を集めることに奔走しているとか。
伊東のパターンから言って、素直な意見を俺に求めることはしないだろう。社会学部の学生らしい……いや、俺ならではの捻くれた、穿った視線を求めているのだろう。
「そもそも俺は男で、レディースデーの恩恵を受けたことなんざねえんだけどな」
「そんなことはわかってるよ。一応女の子にも話は聞いて回ってるんだ。高ピーなりの見解でいいから」
「そうだな。広告なんかでもそうだけど、女にどんだけ訴えかけるかっつーことが言われるよな。まあ、店側も似たような認識でいると思っていいだろう」
「ふむふむ」
財布を握る機会のある女をいかに動かすか。どのように金を吐き出させるか。メディアも小売店も考えることは同じだろう。そのために、魅力のあるコピーで目を引こうと尽力する。
男尊女卑と言われて久しいが、女はこれだけ得しますよ、男は変わりませんよと言われれば、むしろ女尊男卑じゃねえかと言い出す奴も出てくるだろう。
ただ、セールだとか曜日ごとのサービスには表面上にある得の裏に罠が仕掛けてあるモンだと思っている。みんな慈善事業でやってんじゃねえ。商売やる以上、利益を出さなきゃ生き残れねえんだから。
「でもその辺は仕入れの努力とかで」
「――にしても限度があるだろ。一時的に赤字になったとしても、金を使いたくなる心理っつーのを突けば問題ねえかもしんねえけどな」
「どうやって?」
「得すると謳って必要ねえモンまで買わせる。女は買い物にご執心な割には要らねえモンまで買って無駄にする生きモンだろ。俺からすればレディースデーは罠にハマった連中から毟り取る仕組みで、決して女を尊ぶモンじゃねえな」
「ありがとうございました」
「もちろん、それを賢く使えば踊らされずに済むとは言っておくぞ」
果たしてこれで良かったのだろうか。時間さえあればもっと穿った目で見ようと思えば見れるけど。まあ、この意見を伊東が参考にしようがしまいが俺に得もなければ損もない。
「ま、インターフェイスのメディアネットワーク然りで、口コミに勝る情報源なんつーのはそうそうねえ。男は調べる奴も多いけど、女は井戸端で小耳に挟んだ話も鵜呑みにするだろ。それに群れで動くことが多い」
「そういう人もいるね」
「だからこそ、そういう女を手厚く接待することで広告費を削減出来るとも考えられるな」
「そういう風にも繋がってくるんだね」
考え始めるとキリがない。今度、図書館にでも言って消費者心理とマーケティングについての本でも探してこようか。俺もしっかり踊らされてるな。
end.
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考えようはいろいろ、という穿った高崎のお話。今週地味に高崎ウィークになりそうな気がする。わかんないけど。
タイトルは完全にお遊びで深い意味なし。まあ、ナノスパのお話のタイトルって割と記号だから差別化出来てればそれでいいみたいな的なサムシング。
ちなみにいち氏は経済学部。ナノスパで他に経済学部って言ったら洋平ちゃんがいたね!